静かにしなくていい県立図書館——山梨県立図書館
甲府駅北口から徒歩3分、2012年開館の山梨県立図書館。愛称は「かいぶらり」。コンセプトは「情報のフードコート」で、館内では会話ができる。静寂を旨とした先代の館を建て替えて生まれたこの図書館は、図書館という場所の定義そのものを更新しにきている。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 4 #17は山梨県立図書館。愛称はかいぶらり。甲府駅北口から徒歩3分、ペデストリアンデッキを歩いてすぐという、これまで見てきた郊外型の県立図書館とは正反対の立地にある。
そしてこの図書館は、館内で会話ができる。
「情報のフードコート」というコンセプト
2012年11月11日に開館したこの館は、設計段階から変わったことを求められていた。甲府駅前の中心市街地活性化の核になること。イベントや待ち合わせで来た人、観光客、子どもたちが自由に交流できること。
設計を担当した久米設計の野口秀世氏は、「これは図書館ではないんじゃないか、と思えるような場をつくろうとしていた」と振り返っている。掲げられたテーマは「情報のフードコート」だった。
大学や研究機関で広がっていたアクティブラーニングの発想を公共図書館に持ち込み、書架のある空間と、人が話せる空間を同居させる。街から連続する「メインストリート」を建物の中心に通し、交流ルームやテラスを沿わせて、都市の空気をそのまま館内に引き込む。ガラスを多用した外観は、中で人が活動している様子を外へ見せるためのものだ。
つまりこの図書館は、「図書館は静かな場所」という前提を意図的に外している。もちろん静かに読みたい人のためにサイレントルームも用意されているので、静寂が必要ならそこへ行けばいい。選べるようになっている、というのが正確なところだ。
設計は久米設計・三宅建築設計事務所JV、地上4階地下1階、延床10,851平方メートル。第40回建築作品コンクールで一般部門の最優秀賞を受けている。全面ガラス張りの外観に大きな吹き抜けが組み合わさり、館内には自然光がよく回る。1階には「図書カフェ by 白州・山の水農場」が入っていて、作業の合間に降りてこられる。営業は10:00〜18:00(閲覧エリアの休館日は16:00まで)。
鬼頭梓の図書館を、建て替えて
この転換の意味は、先代の館を知ると際立つ。
山梨県立図書館の始まりは1900年(明治33年)、山梨県教育会付属図書館としての開館だった。1930年(昭和5年)、山梨出身の実業家根津嘉一郎の寄付によって県庁構内に新館が建ち、翌1931年に県立へ移管されて現在の名称になる。戦後はアメリカ軍政部に建物を接収されて移転を余儀なくされた時期もあった。
そして1970年、甲府市丸の内に2代目の館舎が完成する。設計は鬼頭梓。日本の図書館建築のパイオニアとして知られ、東京経済大学図書館や日野市立図書館など、戦後の公共図書館のかたちを作った建築家である。鬼頭の図書館は、資料と利用者が静かに向き合う空間を丁寧に組み立てるものだった。
その館が老朽化と収蔵スペース不足で、2012年6月10日の業務を最後に閉館。建物は解体された。同じ年の11月、北口に「情報のフードコート」が開く。
静けさの図書館から、賑わいの図書館へ。 日本の図書館建築が半世紀かけて動いた分の距離を、山梨県立図書館は建て替え1回でまたいだことになる。どちらが正しいという話ではなく、公共図書館に期待される役割そのものが変わったということだ。
結果は数字に出た。開館から半年強で入館者50万人、1年余で100万人。県の目標の倍のペースだった。開館時の館長には作家の阿刀田高が就き、現在は日本語学者の金田一秀穂が務めている。館長に文筆家を迎えるのも、この館の性格をよく表している。
2つのエリア、2つの開館時間
かいぶらりの構成でいちばん実務的に重要なのが、閲覧エリアと交流エリアが別々に動いていることだ。
- 閲覧エリア:平日 9:00〜20:00/土日祝 9:00〜19:00。休館日は月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始、6月ごろの蔵書点検期間
- 交流エリア:9:00〜21:00。休みは年末年始等のみ
つまり図書館が休みの月曜でも、交流エリアは開いている。イベントスペースや多目的ホール、貸会議室があり、会議やセミナー、テレワーク、楽器練習にまで使われている。9時から21時まで、ほぼ年中無休で開いている公共施設が駅前にある、という状態だ。
これも「情報のフードコート」の帰結だと思う。本を借りる用事がなくても入れる場所にする、という設計思想が、運営時間の設計にまで及んでいる。
設備とアクセス
Wi-Fiは館内で無料の公衆無線LANが使え、パソコンの持ち込みと電源の利用も可能。電源は2階のパソコン優先席をはじめ、指定された多くの閲覧席・学習席に付いている。
そして、この館を使いこなす鍵は座席の選び方にある。
- パソコン優先席(2階)——キーボードの打鍵音を気にせず作業できるエリア。レポートや仕事はここ
- サイレントルーム——ガラスで仕切られた、紙をめくる音すら気にならない静寂の区画。集中して読む・書くならここ
- 一般閲覧席——参考書や問題集を持ち込んだ自習も広く認められている
「静かにしなくていい図書館」と書いたが、正確には静けさの度合いを自分で選べる図書館だ。うるさい場所と静かな場所が、同じ建物の中に設計として並んでいる。
館内4か所にはインターネット用のパソコンコーナーもあり、こちらは座席申込端末で申し込む方式で1人1日3時間まで。1階の視聴覚ブースではDVDやビデオテープを個別ブースで視聴できる。児童資料コーナーには「絵本の観覧車」という装置があり、子ども連れでも構えずに入れる。
蔵書は718,826冊(令和5年度)。地下には約95万冊を収蔵できる書庫があり、まだ余力がある。
注意したいのが駐車場だ。 図書館北側に153台(軽自動車9台・障害者用5台を含む)の専用駐車場があるが、有料である。図書館利用者はカウンターで手続きすれば1時間無料、それを超えると30分ごとに150円。朝から夕方まで6時間こもれば1,500円ほどかかる計算になる。1日腰を据えるつもりなら、電車か自転車で来たほうがいい(駐輪場は無料)。障害者手帳を持つ人が館内施設を利用する場合は全額無料。駐車場自体は24時間利用できる。
もっとも、そもそも車を使う必要が薄い立地でもある。JR甲府駅北口から徒歩3分、新宿から特急で約90分。日帰りで訪ねられる県立図書館というのは、このシリーズではむしろ珍しい部類に入る。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 愛称 | かいぶらり |
| 住所 | 山梨県甲府市北口2丁目8番1号 |
| アクセス | JR中央本線・身延線「甲府駅」北口から徒歩3分(ペデストリアンデッキ利用可)/中央自動車道 甲府昭和ICから約15分 |
| 開館時間 | 閲覧エリア:平日 9:00〜20:00 / 土日祝 9:00〜19:00 交流エリア:9:00〜21:00 |
| 休館日 | 閲覧エリア:月曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始・蔵書点検期間(6月予定) 交流エリア:年末年始等 |
| 開館 | 2012年11月11日(1900年創立、1970年に丸の内の2代目館舎) |
| 設計 | 久米設計・三宅建築設計事務所JV(地上4階地下1階/延床10,851㎡) |
| 蔵書数 | 718,826冊(令和5年度/地下書庫の収蔵能力は約95万冊) |
| Wi-Fi | あり(公衆無線LAN) |
| 電源 | あり(2階パソコン優先席ほか指定席) |
| 座席 | パソコン優先席(打鍵可)/サイレントルーム(静寂)/一般閲覧席(自習可) |
| 駐車場 | あり・有料153台(利用者は1時間無料、以降30分150円/24時間利用可) |
| 飲食 | 図書カフェ by 白州・山の水農場(10:00〜18:00/閲覧エリア休館日は16:00まで) |
| 公式サイト | 山梨県立図書館 |
こんな人におすすめ
- 「図書館は静かにする場所」という前提が崩れる瞬間を見てみたい人
- 鬼頭梓の図書館建築を知っていて、その次の世代の答えを確かめたい人
- 会話しながら資料を広げたい人、逆に究極の静寂がほしい人(同じ建物で両方選べる)
- 打鍵音を気にせずPC作業をしたい人(2階のパソコン優先席へ)
- 月曜でも開いている駅前の公共スペースを、作業場所として使いたい人
- 甲府へ日帰りで来て、藤村記念館や甲府城とまとめて半日で回りたい人
周辺スポット
藤村記念館
明治8年に建てられた旧睦沢学校校舎を移築した、国の重要文化財。バルコニーと太鼓楼を持つ擬洋風建築で、文明開化期の学校建築がそのまま残っている。図書館のほぼ隣、北口広場に建っているので立ち寄らない理由がない。県立図書館の「新しさ」を見たあとに明治の学校を見ると、この土地が140年間ずっと学びの場を作り続けてきたことが分かる。
Google Mapsで見る ›舞鶴城公園(甲府城跡)
甲府駅を挟んで図書館の反対側にある、豊臣期に築かれた甲府城の跡。復元された稲荷櫓や鉄門のほか、当時の石垣が良好に残っている。天守台に登ると甲府盆地と、その向こうの南アルプスや富士山まで見渡せる。図書館で郷土資料を読んでから登ると、盆地の地形と街の成り立ちが腑に落ちる。
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図書館は甲府駅北口から徒歩3分。新宿から特急で約90分という近さで、昇仙峡やワイナリー、富士五湖方面への拠点にもなります。駅前に宿を取れば、朝いちばんから図書館に入れます。
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