日本で最初が、いくつもある——山口県立山口図書館
公立図書館で日本最初の児童閲覧席。公立図書館で日本最初の公開書架。日本初の標準分類表。そして日本で最初の近代的な文書館。1903年に開館した山口県立山口図書館には、いまの図書館が当たり前にしていることの起点がいくつも眠っている。仕掛けたのは初代館長・佐野友三郎だった。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 4 #32は山口県立山口図書館。山口市後河原、パークロード沿い。県庁や県立美術館、亀山公園が集まる一帯にある。
開館は1903年(明治36年)7月6日。山口県内では3番目の図書館だった。
だが日本の図書館史のなかでは、この館は別格である。いま私たちが図書館で当たり前にしていることの、いくつもの「最初」がここから始まっている。
佐野友三郎という館長
初代館長に就いたのが、佐野友三郎(1864〜1920)だった。
もともと佐野は、秋田県立秋田図書館の2代目館長だった。図書館の知識を十分に持っていたわけではないが、帝国図書館長の田中稲城の指導を仰ぎながら、無料開館や月曜休館といった原則を定めた規則を作っていく。ところが「巡回文庫」の準備中、彼を秋田に招いた知事の武田千代三郎が山口県知事に転任する。武田は佐野にも同行と、新設される山口県立山口図書館の館長就任を求めた。佐野はこれを受け、1903年に山口へ赴任した。
そこから起きたことを、館の沿革から並べてみる。
- 1903年7月——開館。公立図書館でわが国最初の児童閲覧席を設置
- 1903年10月——夜9時までの夜間開館を開始
- 1904年1月——巡回書庫の貸出を開始
- 1907年4月——公立図書館でわが国最初の公開書架を設置
- 1909年7月——帝国図書館の八門分類法から、独自の山口図書館分類法へ変更
これが、たった6年のあいだの出来事である。
1907年の、公開書架
このなかでも1907年の公開書架は、決定的だと思う。
それまでの図書館は、利用者が目録から本を選んで請求し、職員が書庫から出してくる方式だった。棚に近づくことはできない。佐野はここで、通俗書を中心とした3,000冊について館内での自由な閲覧と館外への貸出を認めた。本に手を伸ばして、背表紙を眺めて、中を開いて選ぶ。 その最初が、公立図書館ではここだった。
このシリーズで回ってきた館は、どこも開架をあたりまえのように持っている。開架30万冊、開架45万冊——そういう数字を何度も書いてきた。その起点が、1907年の山口の3,000冊にある。
もうひとつ、佐野が作った分類法にも後日談がある。1919年(大正8年)の全国府県立図書館協議会で、山口図書館分類表の第2分類(100区分)までが標準分類表とすることに決まった。日本初の標準分類表である。 一つの館のために考えた分類が、全国の基準になった。
児童閲覧席についても触れておきたい。このシリーズでは児童書をめぐる各県の判断を追ってきた。静岡は児童書を置かず、滋賀は全点購入し、大阪はおまけ絵本まで集め、広島は児童図書館として生まれた。子どものための席を図書館に作る、という発想そのものの出発点が、1903年の山口にある。
鬼頭梓が、建て直した
現在の建物は、1973年(昭和48年)7月に後河原で開館した3代目にあたる。設計は鬼頭梓建築設計事務所。1975年に建築業協会賞(BCS賞)を受けている。
——この連載を読んでくれている人には、もう見慣れた名前だと思う。
#17の山梨県立図書館では、先代館舎を設計した建築家として鬼頭梓の名を出した。彼が手がけた日野市立図書館は、戦後日本の公共図書館のかたちを作った建物だった。#22の滋賀県立図書館では、その日野市立図書館の館長だった前川恒雄が1980年に滋賀へ招かれ、県民1人当たりの貸出を13年連続日本一にした。#28の鳥取県立図書館では、貸出中心の「日野モデル」を課題解決型の「鳥取モデル」が乗り越えた、という評価を紹介した。
そして山口。日本の公共図書館サービスの原点となった館を建て直したのが、戦後の図書館建築を代表する鬼頭梓だった。
前川と鬼頭が日野で示したものは、佐野が1903年から1909年にかけて山口で始めたことの、半世紀後の展開でもある。開架、貸出、児童サービス、巡回文庫。始まりの場所に、その系譜の建築家が建物を建てた。 意図された縁ではないのだろうけれど、連載を続けてきて、これは気持ちのいい符合だった。
レンガを使った重厚な外観で、パークロードの並木によく合っている。
日本で最初の、文書館
「最初」はまだある。
1959年(昭和34年)4月、山口県文書館が新設された。日本で最初の、近代的な文書館である。 現在も館内に併設されていて、江戸期から昭和にかけての山口県行政文書13,549点などを収蔵している。
このシリーズでは、図書館と文書館の関係を何度も見てきた。新潟は県立文書館と同じ建物に入り、福井は文書館とふるさと文学館を抱え、和歌山はきのくに志学館で文書館とホールを持ち、奈良は1館が公文書館機能を兼ねていた。
その系譜の最初が、ここにある。 刊行された本と、行政の原記録を、同じ場所で扱うという発想。日本で最初にそれを制度として立ち上げたのが山口県だった。
館内にはほかに、1956年(昭和31年)10月開館の山口県点字図書館も併設されている。
特色ある部屋も2つ。山口県に関する資料を集めた県民資料室と、明治維新資料室だ。長州である。維新関係の資料をまとめて置く部屋を持つ県立図書館は、ほかにない。
1974年以降、山口県の県立図書館はこの館だけで、分館はない。
建物が、3つ残っている
歴史をたどると、この図書館の建物が街のあちこちに残っていることに気づく。
初代の本館(1903年、中河原)は現存しない。だが1918年(大正7年)に増設された3階建て煉瓦造りの書庫は、市民の保存運動を経てクリエイティブ・スペース赤れんがとして再生され、いまも使われている。
2代目は1928年12月に山口市春日山で竣工し、1929年3月に移転開館した。この建物も現存していて、現在は山口県春日山庁舎になっている。
そして3代目が、いまの後河原の館。書庫は文化施設に、本館は県庁舎に、そして図書館は図書館として。 120年分の建物が、山口市のなかに散らばって生きている。
設備とアクセス
蔵書は約80万冊(2020年3月31日時点で780,500冊)。県内では最大の規模になる。
自習についてははっきりしている。 公式のよくある質問にこうある。
自習室はありません。2階の閲覧席をご利用ください。なお、パソコン優先席、新聞閲覧専用席、資料閲覧専用席等の優先席表示がある場所での自習はご遠慮ください。
館内の席は、館の資料を使って調べものをする人のためのもの。参考書や問題集、単語帳だけを広げる受験勉強・資格試験の勉強は認められていない。持ち込み自習の場所を探しているなら、近くの山口市立中央図書館のほうが柔軟に開放されている。
一方で、館の本や新聞、オンラインデータベースを参考にしながら自分のパソコンでレポートや資料をまとめるのであれば、「持ち込みパソコン優先席」が使える。
- 2階「科学と産業のフロア」に6席
- 2階「人文と社会のフロア」に8席
電源が使えるのは、この計14席だけ。週末やテスト期間は埋まりやすいので、端末はフル充電にしていくか、モバイルバッテリーを持っていったほうが確実だ。
Wi-Fiは「やまぐち FreeWi-Fi Plus」が無料で使える(2階インターネットコーナーを中心とした範囲)。コインロッカーもある。
1階の正面玄関を入って左手に、飲食コーナーが4席ある。 机と椅子が並んでいて、持ち込んだ弁当や軽食を食べられる。席数は少ないが、長時間いるつもりなら知っておきたい。
貸出は10冊まで21日間。利用登録は山口県内に在住・通勤・通学している人が対象だが、県外在住の学生でも帰省先が山口県内なら登録できる。進学で県を出た人を想定した設定で、これは親切だと思う。
開館時間は火曜から金曜が9:00〜19:00(こどもとしょしつは17時まで)、土日祝が9:00〜17:00。休館日は毎週月曜(祝日の場合は火曜も休館)、月末整理日(土日と重なる場合は直前の金曜)、年末年始、そして春と秋の資料点検期間。月曜が祝日だと火曜まで連休になるので、そこは注意したい。
駐車場は県立美術館や亀山公園と共用の「県立文化施設駐車場」が262台、時間制限なしで完全無料。ただし観光で訪れる人も停めるため、埋まっていることがある。
JR山口駅から徒歩20分ほど。パークロードは日本の道100選にも選ばれた並木道なので、天気がよければ歩いて損はない。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 山口県山口市後河原150-1 |
| アクセス | JR山口駅から徒歩約20分(パークロード沿い)/県立美術館・亀山公園に隣接 |
| 開館時間 | 火〜金 9:00〜19:00(こどもとしょしつは17時まで)/土日祝 9:00〜17:00 |
| 休館日 | 毎週月曜日(祝日の場合は火曜日も休館)・月末整理日(土日と重なる場合は直前の金曜日)・年末年始(12/28〜1/4)・資料点検期間(春・秋) |
| 開館 | 1973年7月(1903年7月6日に山口市中河原で開館、1929年に春日山へ) |
| 設計 | 鬼頭梓建築設計事務所(1975年 BCS賞) |
| 蔵書数 | 780,500冊(2020年3月31日時点) |
| 日本初 | 公立図書館で最初の児童閲覧席(1903)/公立図書館で最初の公開書架(1907)/日本初の標準分類表のもとになった分類法(1909)/日本最初の近代的文書館(1959) |
| 併設 | 山口県文書館(1959年開館)・山口県点字図書館(1956年開館) |
| 特色室 | 県民資料室・明治維新資料室 |
| 自習 | 持ち込み教材だけの自習は不可(館の資料を使う人のための席)。資料を参照しながらのPC作業は持ち込みパソコン優先席で可 |
| Wi-Fi | あり(やまぐち FreeWi-Fi Plus/2階インターネットコーナー中心) |
| 電源 | あり(持ち込みパソコン優先席 計14席/2階「科学と産業」6席・「人文と社会」8席) |
| 飲食 | 1階正面玄関左手に飲食コーナー4席(弁当・軽食の持ち込み可) |
| 駐車場 | あり(完全無料・262台・時間制限なし/県立美術館・亀山公園と共用) |
| 貸出 | 10冊まで21日間(県内在住・在勤・在学者+帰省先が県内の県外在住学生) |
| 公式サイト | 山口県立山口図書館 |
こんな人におすすめ
- 日本の公共図書館が、どこから始まったのかを知りたい人
- 明治維新・長州関係の資料を本格的に調べたい人
- 図書館と文書館が同じ場所にある意味を、原点で確かめたい人
- 鬼頭梓の図書館建築を訪ね歩いている人
- 館の資料を参照しながらPCでレポートをまとめたい人(電源席は14席のみ)
- 赤れんがや春日山庁舎とあわせて、120年分の建物をたどりたい人
- 持ち込み教材だけの自習には使えない——その場合は山口市立中央図書館などへ
周辺スポット
クリエイティブ・スペース赤れんが
1918年に山口県立山口図書館の書庫として建てられた3階建ての煉瓦造建築。図書館が移転したあとも市民の保存運動によって残され、1992年から文化施設として使われている。日本の公共図書館サービスの原点となった館が、大正期に本を積み上げていた建物が、いまも山口の街に立っている。
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図書館と同じパークロード沿い、駐車場も共用している県立美術館。雪舟や香月泰男、幕末明治の写真資料などを収蔵する。パークロードは日本の道100選にも選ばれた並木道で、亀山公園も隣接している。図書館・美術館・公園が徒歩圏に収まっているので、一日の組み立てが楽だ。
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図書館はJR山口駅から徒歩20分ほど、パークロード沿いにあります。湯田温泉までは車で10分ほどで、萩や秋吉台、津和野への起点にもなります。温泉に泊まって翌朝に図書館、という組み立てができるエリアです。
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