市立図書館を飲み込んで生まれた館——富山県立図書館
1940年、紀元二千六百年記念事業として設立された富山県立図書館。1943年には富山市立図書館を併合し、辰野金吾設計の館舎ごと引き継いだ。だが1945年の富山大空襲で全焼。戦後に再建され、1969年に呉羽山西麓へ移る。そして1970年、市立図書館が県立から分離独立する——のちにTOYAMAキラリになる館だ。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 4 #15は富山県立図書館。富山市茶屋町、呉羽山の西麓にある。富山駅からバスで10分ほど、市街地を離れて丘陵へ入っていく立地だ。
この館の来歴が、なかなかすさまじい。
県立が市立を「併合」した
富山県で県立図書館の設置運動が始まったのは1900年(明治33年)。実業協会と教育会が県に建議書を出したが、県は動かず、話は立ち消えになる。
代わりに1909年、富山市立図書館が開設された。当時これは「当分県立ノ代用ニ当タラレタキコト」を求められた館で、つまり県立の代役である。1912年には富山公園内に、東京駅を設計したあの辰野金吾による新館が建てられている。
県立図書館がようやく設置されたのは1940年(昭和15年)。紀元二千六百年記念行事の一環として、総曲輪の大正会館(旧・県会議事堂)に「紀元二千六百年記念富山県立図書館」が開館した。職員8名、蔵書1万冊からのスタートだった。
そして1943年(昭和18年)。戦時下の統合の流れのなかで、富山市立図書館は富山県立図書館に併合されて廃止される。県立は市立の建物——辰野金吾の館舎——に移転し、蔵書は9万冊、職員31名へと一気に膨らんだ。県立が市立を飲み込んで大きくなった、という珍しい経緯である。
だが1945年8月、富山大空襲。館舎は焼け落ち、疎開させていなかった蔵書3万5000冊が失われた。県立神通中学校に仮事務所を置いて再出発し、1949年9月に新館舎が開館。ここで開架式の閲覧室を導入し、移動図書館も走らせている。
1969年(昭和44年)、呉羽山西麓の茶屋町へ移転。現在地である。
そして市立図書館が、独立して帰ってきた
話には続きがある。
1970年(昭和45年)、富山市は市制80周年記念事業として、富山県立図書館から分離する形で富山市立図書館を再建した。場所は富山城址公園内の丸の内。27年ぶりの独立である。
この丸の内時代は2015年まで続き、その後、市立図書館の本館は西町の複合施設TOYAMAキラリへ移った。隈研吾設計、吹き抜けに木のルーバーが渦を巻く、あの図書館だ。
このブログの「建築美」シリーズで富山市立図書館を訪ねたときは、隈研吾の空間の話として書いた。だが県立図書館の沿革を追うと、あの館はいったん県立に飲み込まれ、戦災を経て、分離して生まれ直した図書館の子孫だということになる。同じ県内の県立と市立が、これほど絡み合っている例はそう多くない。
雪の本と、方言学者の文庫
蔵書は2015年度末で924,380冊。うち郷土資料が160,271冊、特設文庫が38,432冊を占める。開架に出ているのは閲覧室で約7万冊、児童書室で約2,500冊で、残る約80万冊は書庫に収まっている。開架率が低い、典型的な保存型の県立図書館だ。
特色として挙げられているものに「雪に関する文献」がある。豪雪地帯を抱える県の図書館らしい収集方針で、こういう一行にその土地の事情が出る。
特設文庫では大田文庫が面白い。方言学者・大田栄太郎の旧蔵書3,014冊が1992年に開設されたもので、方言学・民俗学・歴史学の基本図書に加えて、柳田國男の書簡や牧野富太郎の原稿といった一次資料が含まれている。富山ゆかりの近代文学資料を集めた洗足学園富山文庫、富山ゆかりの人物を軸にした県人文庫もある。
館内には、アジアや欧米の洋書が並ぶ国際プラザ、契約データベースが使える情報プラザ、コレクションルーム、サークルプラザ、多目的ホールといった諸室が置かれ、貴重書庫も備える。弁当を広げられる飲食コーナー・休憩室もあるので、長居する前提で行ける。
設備とアクセス
閲覧席は約174席。参考書や問題集を持ち込んだ自習も公式に認められていて、独立した自習室はないが勉強に使える。
注意したいのが、Wi-Fiと電源が館内全域では使えないこと。 Wi-Fiが飛んでいるのは2階のコレクションルーム周辺のみ。電源に至っては、国際プラザ・コレクションルームの4席と情報プラザの4席、合わせて8席しかない。パソコンを開いて作業するつもりで行くなら、この8席の争奪戦になる。デジタル前提の日は開館直後を狙ったほうがいい。
逆に、紙の資料と向き合う日なら何も困らない。館内には弁当や水筒を持ち込める飲食コーナー・休憩室があるので、外に出ずに1日こもれる。
駐車場は無料。建物前の第1駐車場と、県道を挟んだ向かいの第2駐車場を合わせて約94台分ある。呉羽山の中腹という立地上、車で来る人が多いことを見越した台数だろう。
公共交通なら、富山駅前から地鉄バスで「呉羽山公園」下車、徒歩9分。あるいは北代循環(新港東口行き)で「県立図書館前」下車すぐ。バス停名がそのまま図書館なので、こちらのほうが迷わない。
開館時間は火曜〜金曜が9:00〜19:00、土日祝が9:00〜17:00。休館日は毎週月曜(祝日の場合は翌日)と毎月第4木曜(同)、年末年始、そして11月末から12月にかけての蔵書点検期間。この蔵書点検が数日〜2週間と長めなので、冬に訪ねるなら開館カレンダーの確認は必須だ。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 富山県富山市茶屋町206-3(呉羽山西麓) |
| アクセス | 富山駅前から地鉄バス「呉羽山公園」下車 徒歩約9分/北代循環「県立図書館前」下車すぐ |
| 開館時間 | 火〜金 9:00〜19:00 / 土日祝 9:00〜17:00 |
| 休館日 | 毎週月曜日(祝日の場合は翌日)・毎月第4木曜日(同)・年末年始・蔵書点検期間 |
| 蔵書数 | 924,380冊(2015年度末/郷土資料160,271冊・特設文庫38,432冊を含む) |
| 閲覧席 | 約174席 |
| Wi-Fi | あり(2階コレクションルーム周辺のみ) |
| 電源 | あり(国際プラザ・コレクションルーム4席+情報プラザ4席の計8席のみ) |
| 学習室 | あり(独立した自習室はなし、一般閲覧席で自習可) |
| 駐車場 | あり(無料・第1と第2あわせて約94台) |
| 館内設備 | 国際プラザ(洋書)・情報プラザ(契約データベース)・コレクションルーム・多目的ホール・貴重書庫・弁当持ち込み可の飲食コーナー |
| 公式サイト | 富山県立図書館 |
こんな人におすすめ
- 県立と市立が併合・分離を繰り返した、富山の図書館史をたどってみたい人
- TOYAMAキラリ(富山市立図書館本館)を訪ねたことがあり、その前史を知りたい人
- 雪や売薬など、富山ならではのテーマで郷土資料を掘りたい人
- 柳田國男の書簡や牧野富太郎の原稿といった一次資料に触れてみたい人
- 呉羽山の展望台や民俗民芸村と組み合わせて、丘陵を歩く一日にしたい人
- 弁当を持ち込んで、紙の資料と一日じっくり向き合いたい人(PC作業なら電源8席の争奪戦に注意)
周辺スポット
呉羽山公園展望台
図書館が建つ呉羽山の稜線上にある展望台で、富山平野の向こうに立山連峰が壁のように連なる景色が広がる。空気の澄んだ晴天の日は、街と山と海がひとつの視界に収まる。図書館で富山の郷土資料を読んでから登ると、教科書的な「立山信仰」や「売薬」の話が急に立体的になる。
Google Mapsで見る ›富山市民俗民芸村
呉羽山の麓に、民芸館・民俗資料館・売薬資料館・陶芸館など9つの小さな館が点在する施設群。移築された合掌造りや土蔵を使った建物が多く、丘陵を散策しながら巡る構成になっている。とくに売薬資料館は「越中富山の薬売り」を実物で追える場所で、県立図書館の郷土資料とセットにすると理解が深い。
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