100万冊が円形に積み上がる、異世界へ——石川県立図書館
本のページをめくるような外観、4階まで吹き抜けた円形の閲覧空間、100万冊超の蔵書。金沢に、一度は訪れる価値がある図書館がある。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
「異世界」という言葉が、珍しく正しく使われている図書館がある。
外壁のガラスとパネルが折り重なり、本のページをめくるような外観。中に入れば、4階まで吹き抜けた円形の閲覧空間が広がる。100万冊を超える蔵書が、ぐるりと360度を囲んでいる。
石川県立図書館、愛称百万石ビブリオバウム。2022年に移転開館し、全国的に注目を集めているこの図書館は、「図書館好き」を名乗るなら一度は来ておきたい場所だ。
設計は仙田満、あの図書館と同じ人
この特徴的な建物を設計したのは、建築家仙田満が率いる環境デザイン研究所である。
仙田満は、子どもの遊び場を「遊環構造」という理論で捉えた研究で知られる建築家だ。円を描いて巡ることができ、途中に変化があり、めまいのような瞬間を含む——そういう循環する空間が、子どもの遊びを引き出すという考え方である。
そう聞いてから館内を見渡すと、この図書館の構成が腑に落ちる。すり鉢状に開いた円形の大閲覧空間、ぐるりと1周する回廊、空中を渡るブリッジ。これは大人のための遊環構造なのだ。目的の本を最短で取って帰る動線ではなく、回遊してしまうように作られている。
ちなみに環境デザイン研究所は、このブログの建築美シリーズで最初に取り上げた国際教養大学中嶋記念図書館(秋田)も手がけている。半円形に本棚が段状にせり上がる、あの「本のコロシアム」だ。円形、木、そして回遊。並べてみると、同じ設計者の手つきがはっきり見えてくる。
規模は地上4階・地下1階、延床面積約22,721平方メートル。開架は約30万冊で、書庫の収蔵能力は約200万冊にのぼる。天井にはベンガラ色と青が使われており、加賀の色が空間の上部を締めている。
前田家の蔵書から、110万冊まで
「2022年にできた新しい図書館」という印象が強いが、石川県立図書館の来歴は明治まで遡る。
始まりは1879年(明治12年)、石川県勧業博物館のなかに設けられた図書室だった。ここで公開されたのが、前田家の蔵書3万余冊である。加賀百万石の大名文庫が、県民に開かれた最初の瞬間だった。愛称の「百万石ビブリオバウム」は、この出自をそのまま名前にしている。
1908年に前田家の希望で蔵書が移譲され、博物館の図書室は閉室。1910年に県議会が県立図書館の設立を可決し、1912年(明治45年)1月17日、兼六園内に石川県立図書館が開館した。1964年には自動車文庫「ともしび号」が県内を巡回しはじめる。
1966年(昭和41年)、金沢市本多町の石川県社会教育会館へ移転。これが多くの人の記憶にある「旧県立図書館」で、設計は富家宏泰、閲覧室は3階にあった。だが建物の老朽化と、約85万冊で限界に達した収蔵能力が課題になる。2015年に知事が建て替えを表明し、2021年10月31日、旧館は55年の歴史を閉じた。
そして2022年7月16日、金沢大学工学部の跡地である小立野に、現在の館が開館する。収蔵能力は旧館の2倍以上。前田家の3万冊から始まった蔵書は、110万冊を数えるまでになった。
兼六園、本多町、小立野。この図書館は金沢の街を3度移りながら、140年以上ずっと続いている。
空中に浮かぶブリッジと500の閲覧席
館内の見どころは多い。
中でも印象的なのが、中空に浮かぶように設置されたブリッジだ。吹き抜けのグレートホール最上部には1周約160mの回廊式閲覧空間もあり、本の歴史を12のテーマに分けた展示が続く。どこを歩いても本に囲まれているという感覚が途切れない。
閲覧席は館内に約500席。家具デザイナーが監修したというだけあって、席ごとに形も素材も異なり、「どの席に座るか」を選ぶ楽しみがある。
100万冊との偶然の出会い
この図書館の設計思想のひとつが、「探している本ではなく、思いがけない本と出会う」ことだ。
身近でなじみ深い12テーマを集めた本棚では、ジャンルを横断しながら視覚的に本を選べる。「何を読もうか決まっていない」状態で来ても、むしろそのほうが楽しい。館内にはカフェもあり、飲食可能な文化交流エリアではイベントや音楽会なども開催されている。
アクセスと駐車場
金沢駅からは北鉄バスで約20分。兼六園や21世紀美術館からも比較的近く、金沢観光のコースに組み込みやすい立地だ。
駐車場は館内の割引機で手続きすれば3時間まで無料。割引機は案内カウンター・カフェ内など4か所にある(事前精算機と間違えやすいので注意)。
足を伸ばすなら、こまつの杜へ
金沢から車で約50分、小松市にあるこまつの杜は、世界的な建機メーカー・コマツの工場跡地に作られた無料体験施設だ。
超大型ダンプトラックや油圧ショベルといった巨大な重機が屋外にどんと展示されており、そのスケール感は写真では伝わりきらない。館内ではミニショベルの操作体験やシミュレーターも無料で楽しめる。駐車場も無料。子どもはもちろん、大人でも十分に楽しめる。
石川県立図書館と同日に回るには少し距離があるが、金沢に泊まるなら翌日の立ち寄り先として十分に候補に入る。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 愛称 | 百万石ビブリオバウム |
| 住所 | 石川県金沢市小立野2丁目43番1号 |
| 開館 | 2022年7月16日(旧館は1966年開館、2021年10月31日閉館) |
| 設計 | 環境デザイン研究所(仙田満) |
| 開館時間 | 火〜金 9:00〜19:00 / 土日祝 9:00〜18:00 |
| 休館日 | 月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始、特別整理期間 |
| 蔵書数 | 約110万冊(開架約30万冊/書庫収蔵能力約200万冊) |
| 閲覧席 | 約500席 |
| 駐車場 | あり(3時間まで無料・要割引機手続き) |
| カフェ | あり |
| アクセス | 金沢駅より北鉄バス約20分 |
こんな人におすすめ
- 「すごい図書館」を一度は体験したい人
- 金沢観光に知的スパイスを加えたい人
- 何を読むか決めずに本と出会いたい人
- 建築・空間デザインに興味がある人
- 仙田満の「遊環構造」が図書館でどう働くのかを確かめたい人
- 加賀百万石の大名文庫から続く、140年の来歴をたどりたい人
周辺スポット
こまつの杜
世界的建機メーカー・コマツの工場跡地に作られた無料施設。超大型ダンプトラックや油圧ショベルの展示、ミニショベル体験やシミュレーターも無料。駐車場も無料。金沢からは少し足を伸ばす必要があるが、一見の価値あり。
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