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·鳥取県鳥取市尚徳町·約17分

貸すだけでは、終わらせなかった——鳥取県立図書館

2006年、第1回Library of the Yearの大賞に選ばれたのは、人口が全国でいちばん少ない県の図書館だった。財政力指数0.22の県で、図書館も地域経済に貢献したいとビジネス支援を始めた鳥取県立図書館。本を貸す図書館から、県民の課題を解く図書館へ。その転換は「鳥取モデル」と呼ばれている。

鳥取県立図書館のイメージ

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。

Phase 4 #28は鳥取県立図書館。鳥取市尚徳町、県庁のすぐ隣。とりぎん文化会館、鳥取県立公文書館と敷地を分け合っている。JR鳥取駅からバスで「県庁・日赤前」下車すぐ。

中国地方に入って最初の館は、この連載の流れでいうとひとつの到達点にあたる。


第1回、大賞

2006年、図書館の先進的な取り組みを顕彰する「Library of the Year」が始まった。その第1回の大賞に選ばれたのが、鳥取県立図書館である。評価されたのは、ビジネス支援サービスと、市町村立図書館や学校図書館との連携だった。

2012年には、慶應義塾大学が全国の公共図書館を対象に行った調査で、「活動が優れ注目している図書館」の全国1位にも挙げられている。

人口約54万人。全国で最も人口の少ない県の図書館が、全国の図書館関係者からいちばん注目されていた。

ただ、ひとつ正直な記述が館の30周年記念誌に残っている。外部では高く評価されていたが、県民にはあまり知られていなかった、と。専門家に褒められることと、地元で使われることは別の話だ。そこで館はマスコミや商工団体に積極的に発信し、県民に使ってもらう方向へ舵を切っていく。


財政力指数0.22から

ビジネス支援事業が始まったのは2004年(平成16年)4月。

背景には、県の厳しい財政事情があった。財政力指数0.22、道府県税比率10.8%、どちらも全国45位。自前の税収で行政を回す力が、全国でも最も弱い部類に入る県だった。

そのなかで図書館は考えた。図書館も、地域の最大の課題である地域経済の発展に貢献できないか。

図書館は本来、仕事や生活に役立つ場所のはずだ。だが実際の利用のなかで、仕事のために図書館を使う人の割合は小さい。そこで「図書館は本を借りに行く場所」という県民のイメージを変える施策として、ビジネス支援に着手した。資料の提供に加えて、経済団体や行政機関と組んだセミナー、相談会、出張図書館。田舎の図書館ならではの連携が、この館の武器になった。

同じ2004年度までに、鳥取県は県内すべての全日制高校に正規の司書職員を配置している。この環境を生かし、若年層の就職支援にも高校図書館と組んで取り組んだ。


図書購入費1億円と、民主主義の砦

この時期の鳥取県知事は片山善博だった。

片山知事の言葉として伝わっているのが、「図書館は民主主義の砦」。一見言い過ぎにも聞こえるこの言葉を、県は予算で裏付けた。図書購入費1億円。全国でも人口最少の県が、県立図書館の資料費にこれだけの額を投じた。

そして滋賀県立図書館と同じく、児童書の全点購入にも取り組んでいる。国内で刊行される子どもの本をすべて買い、県内を巡回展示する。財政の厳しい県が、ここに予算を割いたのだ。


日野モデルを、越えて

ここで、この連載をずっと読んでくれている人には思い出してほしい名前がある。

#17の山梨県立図書館の回で、先代館舎を設計した鬼頭梓に触れた。彼は東京都日野市の日野市立図書館を設計した建築家だった。

#22の滋賀県立図書館の回では、その日野市立図書館の館長だった前川恒雄が1980年に滋賀へ招かれ、県内に図書館を作らせ、県民1人当たりの貸出を13年連続日本一にした話を書いた。

日野市立図書館が示したのは、「貸出こそ図書館の本質」という考え方だった。戦後日本の公共図書館は、この「日野モデル」を手本に伸びてきた。滋賀はその最も成功した継承者だったと言っていい。

鳥取は、そこから一歩先へ出た。

貸出だけでなく、県民が抱える課題を図書館が一緒に解く。 ビジネス、就職、医療、法律、子育て。市町村立図書館や大学図書館、図書館以外の機関とも組んで、公共政策として県民全体に図書館サービスを届ける。この形は「公共図書館の鳥取モデル」と呼ばれるようになった。2026年7月に出た鳥取の図書館史をまとめた本では、この鳥取モデルの登場によって、貸出ばかりが注目されてきた日野モデルがようやく乗り越えられた、という見方も示されている。

山梨では建物として、滋賀では貸出として、鳥取ではその先の課題解決として。 同じ日野市立図書館から始まった流れが、三つの県立図書館に違う形で流れ着いている。連載を続けてきて、いちばん大きな糸が見えた回だと思う。


1931年、読書倶楽部と「図書館の屋根の下」

先進性は、最近始まったものでもない。

鳥取県立鳥取図書館の開館は1931年(昭和6年)7月18日。建築家置塩章の設計で、1930年12月に本館・書庫・講堂が竣工した。

草創期の活動が面白い。1932年1月には「鳥取読書倶楽部」の初会合が開かれる。メンバーは鳥取県知事、鳥取市長、鳥取高等農業学校長、裁判官、新聞記者——各界の名士と知識人の集まりで、図書館の児童室で講師の話を聞く定例会を重ねた。同年9月には閲覧者どうしの研究懇談の場として「館友会」も始まっている。

鳥取県には、池田紫星が生んだ「図書館の屋根の下」という言葉が広く使われているという。図書館を、人が集まり語り合う屋根として捉える感覚。90年前からこの土地にあった発想が、いまの課題解決型の図書館につながっている。

1987年に指名設計競技で佐藤武夫設計事務所が選ばれ、1990年(平成2年)3月に現在の館が竣工。県立公文書館と同時に建てられ、9月29日に開館式が行われた。業務開始と同時に、宅配便による資料提供サービスを試行している。1990年の時点で、図書館に来られない人へ本を届けようとしていた。

旧館の建物は、1995年に童謡・唱歌とおもちゃのミュージアム「わらべ館」に生まれ変わった。


設備とアクセス

月曜日も開いている。これはこの連載では珍しい。休館日は毎月第2木曜と毎月末日(12月のみ28日)、年末年始、特別整理期間で、曜日で固定された休みがない。

開館時間は季節で少し変わる。火曜から金曜は5月〜10月が9:00〜19:00、11月〜4月が9:00〜18:30。土・日・月・祝日は通年9:00〜17:00。

蔵書は1,183,258冊(2019年度末)。人口最少の県の県立図書館として、この数字は大きい。閲覧席は132席。

そして自習の扱いが、この館らしい。

一般閲覧席は「図書館の資料を使って調べる人」のための席で、教材だけを広げる自習には使えない。そのかわり2階の小研修室が、フリースペースとして常時無料で開放されている。ここのルールが面白い。

  • 予約不要、当日先着順。利用時間の制限もない
  • 電源がある。一般閲覧室のパソコン席にはコンセントがないので、電源を使いたいならここへ
  • 会話もできる。閲覧室に声が漏れないよう大声は控える、というマナーの範囲で、利用者同士の交流が認められている
  • 飲み物は水筒やペットボトルなどフタのできる容器で水・お茶のみ。食事とジュース類は不可

これはもう「自習室」というより、予約なしで使えるワークスペースに近い。持ち込みの勉強はもちろん、パソコンを広げたリモートワークもできる。和歌山県立図書館も自習スペースを別に用意していたが、あちらは電源がなかった。鳥取は電源があり、時間制限もなく、会話まで許している。課題解決型の図書館は、自習の場所まで「使える」ほうへ振っている。

Wi-FiはFREESPOTが1階・2階のパソコン席を中心に使える。利用時はカウンターで申込用紙に記入する方式だ。コインロッカーもある。

駐車場は、とりぎん文化会館・公文書館・県立図書館の共同駐車場で341台、完全無料(自家用車328台、マイクロバス6台、身障者用7台)。ただし隣のとりぎん文化会館で大規模なコンサートや学会がある土日祝は満車になりやすいので、文化会館の催し物カレンダーを先に見ておくと安心だ。満車のときは県庁舎構内駐車場や県庁北側駐車場も使える。


基本情報

項目内容
住所鳥取県鳥取市尚徳町101(とりぎん文化会館・県立公文書館と同一敷地)
アクセスJR鳥取駅からバス「県庁・日赤前」下車すぐ/JR鳥取駅から徒歩約25分
開館時間火〜金 9:00〜19:00(11〜4月は18:30まで)/土・日・月・祝日 9:00〜17:00
休館日毎月第2木曜日・毎月末日(12月のみ28日)・年末年始(12/29〜1/3)・図書館特別整理期間 ※月曜は開館
開館1990年9月29日(1931年7月18日に鳥取県立鳥取図書館として開館)
設計佐藤武夫設計事務所(旧館は置塩章)
蔵書数1,183,258冊(2019年度末)
受賞Library of the Year 2006 大賞(第1回)
閲覧席132席
自習閲覧席は資料利用者向け。2階小研修室をフリースペースとして常時無料開放(予約不要・先着順・時間制限なし・電源あり・会話可・飲み物はフタ付き容器の水・お茶のみ)
Wi-Fiあり(FREESPOT・1階2階のPC席中心・カウンターで申込)
電源あり(2階フリースペース内のみ。一般閲覧室のPC席にはなし)
駐車場あり(無料・とりぎん文化会館・公文書館と共同/計341台。文化会館のイベント日は満車になりやすい)
公式サイト鳥取県立図書館

こんな人におすすめ

  • 起業や事業の調べもので、図書館のビジネス支援を使ってみたい人
  • 予約なし・時間制限なし・電源ありの場所で、勉強やリモートワークをしたい人(2階フリースペース)
  • 「課題解決型図書館」の原点を、自分の目で見ておきたい人
  • 日野市立図書館から続く日本の公共図書館の流れに興味がある人
  • 月曜に開いている図書館を探している人
  • わらべ館(旧館)や仁風閣とあわせて、鳥取の城下町を歩きたい人

周辺スポット

文化施設

わらべ館

童謡・唱歌とおもちゃのミュージアム。建物は、1931年から1990年まで鳥取県立図書館が使っていた旧館を活かしたもので、1995年に開館した。建築家・置塩章の設計による戦前の図書館建築が、いまは子どもたちの遊び場になっている。県立図書館の来歴を知ってから訪ねると、ひときわ味わい深い。

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約1km(鳥取市西町)
歴史・文化

仁風閣・鳥取城跡

鳥取城跡のふもとに建つ白亜の洋館で、1907年に旧鳥取藩主池田家の別邸として建てられた。フレンチ・ルネサンス様式の意匠と螺旋階段が見どころで、国の重要文化財。背後の久松山には鳥取城の石垣が残る。県庁の目と鼻の先にあるので、図書館からの散歩にちょうどいい。

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約700m(久松山のふもと)

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図書館はJR鳥取駅からバスで「県庁・日赤前」下車すぐ、歩いても25分ほど。鳥取砂丘や湖山池、白兎海岸への起点にもなります。駅周辺に宿を取れば、図書館と砂丘を一日で回れます。

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