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·島根県松江市内中原町·約15分

1968年に、レファレンスから設計された——島根県立図書館

菊竹清訓が1968年に設計した島根県立図書館は、国の登録有形文化財。閲覧室をL字型にして、その要に司書を置く。レファレンスサービスがこれからの図書館で重要になると見越した平面計画だった。松江城の堀端に建つこの館は、築50年を超えて初めての大規模改修を控えている。

島根県立図書館のイメージ

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。

Phase 4 #29は島根県立図書館。松江市内中原町、松江城の堀端に建つ。松江駅からバスで「県庁前」下車、徒歩10分。

設計は菊竹清訓。1968年(昭和43年)10月の竣工で、いまは国の登録有形文化財になっている。


L字の要に、司書を置く

この建物の平面計画が面白い。

鉄筋コンクリート造一部鉄骨造の2階建て。L字形の閲覧室のモジュールを、敷地の形に合わせて配置し、中央のロビーには鉄骨の屋根を架けて展示や休憩のスペースにあてている。外部の壁柱は松江城山公園に向けて揃えられ、閲覧室から城山の緑が見えるよう眺望が確保されている。

なぜL字なのか。島根県の資料にこう説明されている。菊竹は設計にあたって、利用者の調べものを手伝うレファレンスサービスが、これからの図書館で重要になることを見越していた。そこで資料室をL字型にして、その要の部分に司書を配置する基本形を考案した。

L字の内側に立てば、両方の翼を一度に見渡せる。司書が利用者の様子を把握でき、利用者からも司書が見える。レファレンスという機能を、建築の形そのもので支えようとしたわけだ。

1968年である。日本の公共図書館がまだ「貸出」を軸に伸びていこうとしていた時期に、島根では建築の側から別の答えが出されていた。


山陰の二館が、同じ方を向いている

ここで前回を思い出してほしい。

#28の鳥取県立図書館は、2004年にビジネス支援サービスを始め、2006年に第1回Library of the Yearの大賞を受けた館だった。「本を貸す図書館」から「県民の課題を解く図書館」への転換——その核にあるのが、司書によるレファレンスである。

島根は1968年に、その機能を建物の形にしていた。

もちろん直接の因果関係があるわけではない。だが山陰の二つの県立図書館が、36年の時差を挟んで同じ方向を向いていたというのは、並べてみると面白い。鳥取はサービス設計として、島根は建築として。司書が利用者の調べものに付き合う、という一点に、どちらも賭けている。

島根県立図書館も2005年1月に閲覧室の一部へビジネス・就業支援センターを設けていて、ここは鳥取とほぼ同時期の動きになる。


松江の、菊竹建築

菊竹清訓(1928〜2011)は松江の街に、いくつもの建物を残している。

  • 島根県立博物館(1958、現・島根県庁第三分庁舎)
  • 出雲大社庁の舎(1963、現存せず)
  • 島根県立図書館(1968)
  • 島根県立武道館(1970)
  • 田部美術館(1979)
  • 島根県立美術館(1999)

背景には、第23代島根県知事を務めた田部長右衛門(1906〜1979)との関係があったと言われる。知事と建築家が、ひとつの県の公共建築をまとめて作っていった。松江城の周辺は、いまも「モダニズム建築群」と呼ばれる景観を保っている。

図書館の敷地は、もとは松江刑務所だった。松江城西側の松江藩薬草園跡地にあった刑務所が1966年に郊外へ移転し、その跡地を県が取得して図書館が建った。薬草園から刑務所へ、刑務所から図書館へ。城の西側の土地が辿った道のりも、なかなかのものだ。


初めての、大規模改修へ

そして、いまこの建物は転機にある。

2025年、島根県は県立図書館の大規模改修の方針を固めた。築50年以上が経ち、老朽化が進んでいること、館内のスペースが狭いこと、そして構造上バリアフリー化の推進が難しいことが理由とされている。

開館以降、耐震工事や外壁改修は行われてきたが、大規模改修は初めて。国の登録有形文化財であることから、保全を図りながら機能を改善する方針だという。工事期間や事業費、休館の対応については、報道の時点ではまだ詰められていない。

このシリーズでは、古い図書館建築のいくつもの行方を見てきた。京都府立図書館は震災で傷んだ旧館を、正面の外壁だけ残して建て替えた。静岡県立中央図書館は建て替えが決まったのに財源が足りず、老朽化した建物を使い続けている。

島根が選ぼうとしているのは、外観を守りながら中を直すという道だ。文化財としての価値と、使いやすさの両立。どこまでできるかは、これから決まる。訪ねるなら、休館の情報を確認してからのほうがいい。


40席の学習室と、朝の行列

利用の面でひとつ、はっきりした特徴がある。

1階に学習室が40席ある。 持ち込みの参考書や問題集を使う自習のための専用室で、一般の閲覧席(約296席)とは切り分けられている。閲覧席のほうは、あくまで館の資料で読書や調べものをする人のための席だ。

学習室のルールはかなり緩い。

  • 予約不要、申請も不要。当日空いている席を誰でも自由に使える
  • 利用時間の制限もない
  • Wi-Fiも使える。パソコンの使用も可能(ただし打鍵音への配慮は必要)
  • 飲み物は水筒やペットボトルなどフタをきつく閉められる密閉容器に限って可、食事は不可

ただし電源がない。学習室を含め、席ごとに使えるコンセントは館内に用意されていない。パソコンを持ち込むなら、充電を済ませていくかモバイルバッテリーが必須になる。1968年の建物で、席ごとの給電を想定した設計になっていないのだから、当然といえば当然だ。バリアフリー化と並んで、これも大規模改修で問われる点かもしれない。

そしてこの40席が、かなり争われている。公式のFAQにこうある。

開館前に40人以上並ばれている場合は、整理券を配付することがあります。

さらに2025年8月から、土日祝の開館時(9時)についてのみ席の予約が始まった。平日は従来どおり先着順だが、週末の朝だけは予約制に切り替わったことになる。40席に40人以上が並ぶ、という状態への対応だ。

近畿の県立図書館を回ってきたとき、自習への答えが館ごとに違うことを書いた。三重・滋賀・京都は通年で不可、大阪はイベントのない日に多目的室を開放、兵庫は夏休みだけ、奈良は予約制、和歌山は専用スペース常設。前回の鳥取は2階の小研修室を常時開放していた。

島根は専用の学習室を持ったうえで、週末の朝だけ予約制。需要に合わせて運用を変えている。こうして並べると、自習という一点にも各館の事情と工夫が出る。


設備とアクセス

閲覧席は296席。蔵書は約87万冊で、島根県内では最大規模。Wi-Fiは館内で無料の公衆無線LANが使え、学習室内でも利用できる。電源はない。コインロッカーはあるが、レストランやカフェの併設はない。

開館時間が季節で変わる。火曜から金曜は、3月〜10月が9:00〜19:00、11月〜2月が9:00〜18:00。土日祝は通年9:00〜17:00。

休館日は毎週月曜(祝日にあたるときは開館)、毎月第1木曜、年末年始、そして図書館整理日。

駐車場は無料で、図書館建物西側に35台、道路を挟んだ西駐車場に12台、歩行が困難な人の専用が正面入口に2台、県庁職員駐車場の図書館側1列に23台。合計72台だが、数に限りがあるので満車のこともある。土日祝は県庁駐車場と県庁職員駐車場が無料開放されるので、週末のほうがむしろ停めやすい。


基本情報

項目内容
住所島根県松江市内中原町52番地
アクセス松江駅からバス「県庁前」または「県庁南入り口」下車 徒歩10分
開館時間3〜10月:火〜金 9:00〜19:00/11〜2月:火〜金 9:00〜18:00/通年:土日祝 9:00〜17:00
休館日毎週月曜日(祝日は開館)・毎月第1木曜日・年末年始(12/28〜1/4)・図書館整理日
開館1968年10月(前身は1946年開館の島根県立松江図書館、1950年に現名称へ)
設計菊竹清訓(施工:竹中工務店)/国の登録有形文化財
蔵書数約87万冊(県内最大規模)
閲覧席296席(館の資料を使う人向け)
学習室1階に40席(持ち込み自習専用・予約不要・時間制限なし/土日祝9時の開館時のみ予約制、平日は先着順)
Wi-Fiあり(学習室内でも利用可)
電源なし(学習室を含め席ごとのコンセントなし。要充電)
駐車場あり(無料・計72台/土日祝は県庁駐車場も無料開放)
公式サイト島根県立図書館

こんな人におすすめ

  • 菊竹清訓の建築を、改修前の姿で見ておきたい人
  • 図書館建築が「レファレンス」をどう形にしたのかに興味がある人
  • 松江城の緑を窓の外に置いて、調べものをしたい人
  • 週末の朝から学習室で腰を据えたい人(予約制を要確認・電源はないので要充電)
  • 島根県立美術館とあわせて、菊竹の1968年と1999年を見比べたい人

周辺スポット

歴史・文化

松江城

現存12天守のひとつで、2015年に国宝に指定された。黒い下見板張りの外観は「千鳥城」とも呼ばれ、天守からは宍道湖まで見渡せる。図書館は城の堀端に建っていて、閲覧室の窓からこの城山の緑が見える。堀川めぐりの遊覧船に乗れば、水面から街を眺めることもできる。

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徒歩約10分(堀を挟んですぐ)
文化施設

島根県立美術館

宍道湖のほとりに建つ美術館で、設計は県立図書館と同じ菊竹清訓。1999年の開館で、湖に向かって大きく開いたガラス面が特徴だ。日本有数の夕日スポットとしても知られ、日没後30分まで開館する時期がある。図書館で菊竹の1968年を見たあと、同じ建築家の1999年を見に行くという順路が組める。

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約1.5km(宍道湖畔)

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図書館は松江駅からバスで「県庁前」下車、徒歩10分ほど。松江城や宍道湖、玉造温泉、出雲大社への起点にもなります。宍道湖の夕日を見るなら湖畔に宿を取ると効率がいいエリアです。

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