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·岩手県紫波郡紫波町·約12分

図書館が、畑のほうを向いた——紫波町図書館

2012年まで図書館がなかった岩手の農業の町に、駅前の官民複合施設「オガールプラザ」の中核として生まれた図書館。隣の産直の野菜売り場にレシピ本のPOPを出し、公民館へ出向いて野菜づくりの講座を開き、獣害対策まで一緒に考える。農業支援にこだわった図書館。

紫波町図書館のイメージ

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。

Phase 5 #2は岩手県の紫波町図書館。

前回の剣淵は、町ぐるみで絵本にこだわった図書館だった。今回の紫波がこだわっているのは、農業である。


図書館がなかった町

紫波町は、盛岡の南隣にある人口3万人ほどの町だ。りんごやぶどうの産地で、日本三大杜氏のひとつ「南部杜氏」のふるさととしても知られる。米を作り、果物を育て、酒を醸す。農業が町の根っこにある。

その町に、2012年まで図書館はなかった。あったのは中央公民館の図書室で、蔵書は約4万5千冊だった。

状況を変えたのが、紫波中央駅前の町有地をめぐる「オガール・プロジェクト」だ。「オガール」は、地元の言葉で「成長する」を意味する「おがる」と、フランス語で「駅」を意味する「gare」を合わせた名前。長く空き地のままだった駅前の町有地に、町と民間が組んで施設を建てていく公民連携の事業である。

その中核施設「オガールプラザ」の中に、2012年8月31日、紫波町図書館は町で初めての図書館として開館した。


産直の隣で、図書館は何をするか

オガールプラザには、図書館と並んで産直施設「紫波マルシェ」が入っている。町の野菜や果物、肉、地酒を売る場所だ。

図書館とスーパーが同じ建物にある例は、いまでは珍しくない。紫波が面白いのは、そこで図書館の側から産直に出ていったことだ。

開館の翌年、図書館はマルシェの野菜売り場に、所蔵するレシピ本を紹介するPOPを出しはじめた。旬の野菜の横に「この野菜を使うなら、この本」という札が立つ。紹介した本は図書館でも展示し、貸し出す。野菜を買いに来た人が、ついでに料理の本を借りていく。

この関係は逆向きにも働く。野菜を作る側、つまり農家にとって、図書館はどう役に立つか。紫波町図書館はそこを本気で考えた。


農業支援サービス

紫波町図書館の看板は「農業支援サービス」だ。

図書館は運営の三本柱として「子どもと本をつなぐ」「紫波町の地域資料を集める」と並べて、「紫波町の産業を支援する」を掲げている。館内には農業支援コーナーがあり、栽培や農業経営にかかわる本や雑誌が厚くそろう。データベース用のパソコンでは、農文協の出版物をデジタルで検索・閲覧できる「ルーラル電子図書館」も使える。

ただ、棚やデータベースをそろえるだけなら、どの図書館でもやろうと思えばできる。紫波が違うのは、図書館が農家のところへ出かけていくことだ。

  • 出張としょかん:忙しくて図書館に来られない農家のために、地域の公民館へ出向く。2016年には、所蔵する農業DVDを上映し、農山漁村文化協会の職員が野菜づくりのコツや裏技を解説する講座を開いた
  • こんびりカフェ:農業にかかわる人が、仕事や団体の枠を超えて気軽にテーマを語り合うサロン
  • 獣害対策:町の農林課、生産者、岩手大学、JAいわて中央と組み、企画展示で生態や被害、対策を紹介。成功事例の当事者を招くトークイベントや、各地区公民館での講座も開いた

最後の獣害対策は、文部科学省が図書館の地域課題解決の事例として取り上げている。獣害で農家が減っていくのを、図書館が情報と人をつなぐことで食い止めようとした取り組みだ。

図書館は本を貸す場所、と思っているとこの話はつかみにくい。紫波町図書館がやっているのは、農家が抱える課題を調べる手伝いであり、その答えが本の中にあるときもあれば、隣の町の農家の経験の中にあるときもある。


しゃべってもいい、BGMも流れる

館内の雰囲気も、いわゆる「静かな図書館」とは少し違う。

BGMが流れていて、おしゃべりも自由。閲覧カウンター席では飲み物を手に本を読め、18席ある読書テラスでは飲食もできる。オガールの芝生広場を眺めながら本を開けるのは、この図書館ならではだ。年に数回、夜に開くトークイベント「夜のとしょかん」もある。

棚には農業のほかに「まちづくりコーナー」もあって、全国から視察が絶えないオガール・プロジェクト関連の本や、空き家リノベーション、DIYの本が並ぶ。「音楽やろうよ!コーナー」なんていう棚もある。

町の専門家や愛好家が自分の得意分野の棚の前でブースを開く企画、酒蔵やワイナリーと組んだ「BOOK BAR」など、本と町の人をつなぐ仕掛けがとにかく多い。南部杜氏の町の図書館で、地酒と本を並べる夜があるというのは、なかなかいい。


「農業の図書館」が選んだもの

Phase 5の基準でいえば、紫波町図書館は「何でもそろえる」ことを捨てたわけではない。蔵書は132,618冊(2024年3月末)あり、子どもの本も一般書もふつうにある。

ただ、どの利用者のために、いちばん本気を出すかを決めている。紫波の場合、それは畑で働く人たちだった。町の産業が農業なら、町の図書館も農業を支える。当たり前のようで、ここまで徹底した図書館はそう多くない。


設備とアクセス

オガールプラザ中央棟1階の情報交流館内にあり、JR東北本線の紫波中央駅前。盛岡駅からは電車で約20分だ。車なら東北自動車道の紫波ICから東へ約5km。

駐車場は、オガールプラザ専用駐車場が84台で無料。隣の紫波中央駅前駐車場(322台)も使え、こちらは90分まで無料、4時間まで100円。

館内は無料Wi-Fiが使え、申し込みもいらない。ただしコンセントは使えないので、ノートPCで作業するなら充電は満タンにしてから行きたい。Wi-Fi対応のゲーム機の持ち込みは禁止で、Wi-Fiは調べものと自習のためのもの、という位置づけだ。

自習には30席の「学習室」がある。ここは情報交流館の「中スタジオ」と兼用の部屋なので、イベントで使われる日は利用できる時間が限られることがある。閲覧席は一般フロア74席、児童フロア34席。

開館時間は平日10:00〜19:00、土日祝10:00〜18:00。休館日は公式サイトの開館カレンダーで確認を。


基本情報

項目内容
住所岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前2丁目3-3(オガールプラザ中央棟 情報交流館内)
アクセスJR東北本線「紫波中央駅」前(盛岡駅から約20分)/東北自動車道「紫波IC」から約5km
開館時間平日 10:00〜19:00/土日祝 10:00〜18:00
休館日毎週月曜日・月末最後の平日・年末年始(12/29〜1/3)
蔵書数132,618冊(2024年3月31日現在)
開館2012年8月31日(町初の図書館)
こだわり農業支援サービス(農業支援コーナー、出張としょかん、こんびりカフェ、獣害対策)
併設紫波マルシェ(産直)ほか、オガールプラザ内の各施設
Wi-Fiあり(無料・申込不要)
電源なし(コンセント利用不可)
学習室あり(30席、情報交流館中スタジオと兼用)
座席一般フロア74席・児童フロア34席・読書テラス18席(飲食可)
駐車場あり(オガールプラザ専用84台無料/紫波中央駅前駐車場322台・90分無料)
公式サイト紫波町図書館

こんな人におすすめ

  • 図書館が地域の産業をどう支えられるのか、実例を見てみたい人
  • 公民連携のまちづくり「オガール」を、図書館から体感したい人
  • 産直で野菜を買って、その足でレシピ本を探したい人
  • BGMが流れ、おしゃべりもできる気楽な図書館が好きな人
  • 盛岡から足を伸ばして、紫波のりんごやワイン、地酒を楽しみたい人

周辺スポット

グルメ

紫波マルシェ

図書館と同じオガールプラザに入る産直施設。紫波町の野菜や果物、肉、地酒がそろう。図書館がレシピ本を紹介するPOPを出しているのがこの野菜売り場で、気になった料理の本はそのまま図書館で借りられる。旅行者なら、りんごやぶどうの季節に寄るのがいちばん楽しい。

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オガールプラザ内(図書館と同じ建物)
文化施設

野村胡堂・あらえびす記念館

『銭形平次捕物控』の作者・野村胡堂は紫波町の出身。音楽評論家「あらえびす」としてレコード収集でも知られ、記念館ではその両方の顔をたどれる。図書館で農業の本を探したあとに、町が生んだ作家の書斎へ。紫波の文化の厚みが見えてくる。

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約8km(車で約15分)

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紫波中央駅は盛岡駅からJR東北本線で約20分。宿は盛岡市内に取り、日帰りで訪ねるのが動きやすいです。紫波町内には温泉宿もあります。

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