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·北海道上川郡剣淵町·約14分

絵本を選んだ町——剣淵町絵本の館

人口3千人ほどの北海道の農村が、1988年、町の青年14人の発案で「絵本の里」を名乗った。旧役場を改修した絵本の館から始まり、来館者の投票で決まる絵本賞は36回を数え、2026年には全国初の絵本のまちづくり条例まで施行された。Phase 5「こだわりの図書館」シリーズ、最初の一館。

剣淵町絵本の館のイメージ

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。

Phase 5、はじめます

Phase 4では、北海道から沖縄まで47都道府県の県立図書館を書いた。県立図書館は、どこも「なんでも置いてある」ことが仕事だ。あらゆる分野の本をそろえ、県内のどの図書館も支え、誰が来ても困らないようにする。

Phase 5は、その逆をやる。

何か一つに、異常にこだわった図書館を訪ねるシリーズだ。絵本だけ、雑誌だけ、マンガだけ、寄贈された本だけ。あるいは、泊まれる、島じゅうに散らばっている、元ショッピングモールだった。万人向けであることを半分捨てて、その代わりに何かを極端に尖らせた図書館が、日本には意外なほどある。

全24館、北から南へ。最初の一館は、町ごと絵本にこだわった北海道の農村から始めたい。


人口3千人の町が、絵本を選んだ

剣淵町は、旭川から北へ車で45分ほど、上川盆地の北にある農業の町だ。人口は3千人ほど。米や小麦、じゃがいもの畑が広がる、北海道のどこにでもありそうな町である。

その町が、自分たちを「絵本の里」と呼んでいる。

始まりは1988年。バブル景気のただなかで、全国の自治体がリゾート開発やハコモノに走っていた時代だ。この年、剣淵町の公民館講座に二人の講師が招かれた。銅版画家の小池暢子は、景気に流されない「文化のまち」をつくることを提案した。もう一人の松居友は、絵本の原画を美術館で展示するという構想を語った。

講演の翌月、町の青年14人が発起人になって「けんぶち絵本の里を創ろう会」を立ち上げる。ここが大事なところで、言い出したのは役場ではなく町民だった。行政はその後もずっと、口を出さずに支える側に回り続けた。創ろう会の会員は、ピーク時に300人を超えたという。

翌1989年には「けんぶち国際絵本原画展」を開催。27か国60人以上の作家の作品が集まり、12日間で3,500人が来場した。人口の1倍を超える人が、絵本の原画を見に農村へやってきたことになる。


旧役場から始まった「絵本の館」

1991年、旧役場庁舎を改修して「剣淵町絵本の館」が開館した。蔵書は絵本1万冊。改修費には、当時全国の市町村に1億円ずつ配られた「ふるさと創生事業」の交付金のうち、5,000万円が充てられた。

ふるさと創生の1億円といえば、金塊を買って展示した村があったりと、使い道が後々まで語り草になったお金だ。剣淵町はそれで、絵本の図書館を作った。35年後のいまから振り返ると、かなり筋のいい使い方だったと思う。

2004年に現在地へ新築移転。蔵書はいまや約7万8千冊(2025年度末)で、その過半数が絵本だ。施設は四つの役割を持つ。

  • 絵本の図書館
  • 絵本原画を展示する美術館
  • 子育て支援の場
  • 絵本のまちづくりの拠点

図書館と美術館が一体になっているのがポイントで、原画展と蔵書が同じ建物の中でつながっている。


静かにしなくていい図書館

館内の作りも、ふつうの図書館とはだいぶ違う。

建物は「たまご型」と呼ばれる楕円形で、中庭を囲んでぐるりと一周できる。入口で靴を脱いで上がる。床に座り込んでも寝転んでもいい、家のリビングのような図書館だ。

中心になるのは、絵本約4万冊が並ぶ「えほんのへや」。その隣の「たまごのへや」には、木の玉が約10万個入った「木の砂場」がある。子どもが潜り込んで遊ぶのはもちろん、大人が入っても気持ちいい。木製のおままごと遊具もある。

大人向けには、小説や文芸書、雑誌など約3万冊をそろえた「一般書閲覧室」と読書室も用意されている。絵本原画の収蔵室もあるが、こちらは一般公開されていない。

そしてコンセプトは「静寂を求めない図書館」。子どもが声を出して笑っても、叱られない。

図書館は静かにする場所、というのは大人の都合でもある。このシリーズのPhase 4では、県立図書館の「児童書の答え」を何度も見てきた。子ども室を分ける、時間帯を分ける、音を吸う素材を使う。剣淵の答えはもっと単純で、図書館そのものを子どもの側に合わせてしまった。

館内には喫茶「らくがき」もあって、剣淵町産の野菜を使った軽食やジュースがおすすめだ。絵本や地場産品の販売コーナーも併設されている。蔵書を守るため、飲食はこの喫茶コーナーだけ。


来館者が選ぶ、けんぶち絵本の里大賞

絵本の館が開館した1991年に始まったのが、「けんぶち絵本の里大賞」だ。

この賞の選考委員は、専門家ではない。来館者全員である。毎年8〜9月、館内にその年の候補作が並べられ、訪れた人が一人ひとり、気に入った絵本に投票する。大人も子どもも一票。

2025年度の第35回では、8〜9月に6,578人が来館し、271作品に対して2,421人が投票、総投票数は1万1,599票にのぼった。2026年の第36回も10月1日に開票され、受賞作が決まっている。

投票期間中の8月は休館日なしの毎日開館。夏休みに家族で北海道を旅するなら、この時期に寄って一票を入れるのがいちばん楽しい訪ね方だ。投票初日の8月1日は、町が「絵本の里けんぶちの日」に定めている。


2026年、絵本のまちづくり条例

剣淵町の絵本へのこだわりは、図書館の外にもはみ出している。

  • 公共施設や商店に絵本を置く「マチナカ文庫」
  • 赤ちゃんへのブックスタートと、出産記念に贈る椅子「君の椅子」の連携
  • 町内の未就学児に毎年1冊ずつ絵本を贈る「ぷっちーなブック」
  • 約550冊を積んだトラックで町内外を回るキャラバンカー
  • 全道179市町村の子どもに絵本を届ける「エホンキャラバン179」

そして2025年9月、町は「つなぐ、ひろげる剣淵町絵本の里づくり条例」を制定し、2026年4月1日に施行した。絵本を通じたまちづくり条例としては全国初とされる。

1988年に青年14人が言い出したことが、38年かけて町の条例になった。図書館をひとつ建てて終わり、ではなく、町そのものを絵本の側に寄せていった。Phase 5の一館目に剣淵を選んだのは、この「こだわりの深さ」がシリーズの基準になると思ったからだ。


設備とアクセス

開館時間は10:00〜17:00。休館日は毎週水曜日と年末年始、蔵書点検などの特別休館日。8月は毎日開館している。入館は無料(企画展示の一部は有料)。

アクセスはJR宗谷本線の剣淵駅から徒歩約10分。車なら道央自動車道の和寒ICから約15分、旭川市内からは約45分。駐車場は無料で、普通車32台、バス2台、バリアフリー2台分がある。

利用者向けのフリーWi-Fiや、一般開放されたコンセントはない。独立した自習室もなく、一般書閲覧室や読書室は読書と調べもののための場所だ。ここは作業をしに来る図書館ではなく、靴を脱いで絵本を読みに来る図書館だと割り切って訪ねたい。


基本情報

項目内容
住所北海道上川郡剣淵町緑町15番3号
アクセスJR宗谷本線「剣淵駅」徒歩約10分/道央自動車道「和寒IC」から車で約15分
開館時間10:00〜17:00
休館日毎週水曜日(8月は無休)・年末年始・特別休館日
入館料無料(企画展示の一部は有料)
蔵書数約7万8千冊(2025年度末、過半数が絵本)/えほんのへや約4万冊・一般書閲覧室約3万冊
Wi-Fi・電源なし
学習室なし(一般書閲覧室・読書室は読書用)
開館1991年(旧役場庁舎を改修)、2004年に現在地へ新築移転
併設喫茶「らくがき」
駐車場あり(無料、普通車32台・バス2台・バリアフリー2台)
公式サイト剣淵町絵本の館

こんな人におすすめ

  • 小さな子どもと一緒に、靴を脱いでのびのび過ごせる図書館を探している人
  • 図書館がまちづくりの中心になった実例を見てみたい人
  • 夏休みの北海道旅行で、絵本の賞に一票を投じてみたい人
  • ふるさと創生の1億円が、35年後にどう実を結んだかを確かめたい人
  • 旭川・旭山動物園から北へ、宗谷本線沿いをドライブする人

周辺スポット

その他

道の駅 絵本の里けんぶち

2006年開業の道の駅。ここにも絵本コーナーと木の砂場があり、絵本の館と対になる「観光の玄関口」として作られている。剣淵産の野菜や加工品も並ぶ。国道40号沿いなので、旭川〜稚内を車で北上する途中の休憩地点としても使いやすい。

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町内(車で数分)
自然・公園

旭川市旭山動物園

「行動展示」で全国区になった動物園。この園の元飼育員で、のちに絵本作家になったのが、『あらしのよるに』の絵で知られるあべ弘士だ。動物を毎日見てきた目で描かれた絵本を読んでから園を歩くと、見え方が少し変わる。旭川から剣淵へ北上する一日の、出発点にちょうどいい。

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約50km(車で約1時間)

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剣淵町は旭川から車で約45分、JR宗谷本線でも約1時間。宿泊は旭川市内に取り、旭山動物園と組み合わせて日帰りで訪ねるのが現実的です。

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