「早く狭くなれ」と、初代館長は言った——沖縄県立図書館
1910年の開館式で、初代館長・伊波普猷は「閲覧人多くして一日も早く狭隘を告げんことを希望す」と述べた。沖縄戦で灰になった図書館は、108年後、バスターミナルの上に移って一日7,000人が押し寄せる場所になる。Phase 4の最終回は、本当に「狭く」なった県立図書館。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 4 #45は沖縄県立図書館。北海道から始めた県立図書館シリーズの、最終回である。
最後の一館を、ひとりの館長の言葉から始めたい。
閲覧人多くして一日も早く狭隘を告げんことを希望す
1910年(明治43年)、沖縄県立沖縄図書館の開館式で、初代館長の伊波普猷が述べた言葉だ。利用者がたくさん来て、一日も早くこの図書館が狭くなってほしい。新しい図書館の門出に「早く狭くなれ」と言った館長は、ほかに知らない。
尚泰王の遺志と、「沖縄学の父」
沖縄県立図書館の開館は1910年8月1日。琉球国最後の国王・尚泰王の遺志をもとに、県民有志の厚意で、当時那覇の西町にあった県庁の敷地内に開かれた。
初代館長の伊波普猷は、「沖縄学の父」と呼ばれる人物だ。琉球の言語・歴史・民俗を学問として体系立てた研究者で、『古琉球』の著者でもある。1909年から1924年まで館長を務め、図書館を郷土研究の拠点にしていった。
開館式で彼は、図書館は「一般大衆に広く開放し、地域の文化・啓発活動の拠点たらん」とも述べている。冒頭の「早く狭くなれ」は、その決意のいちばん率直な言い方だったのだろう。
沖縄戦で、灰になった
その図書館は、沖縄戦で失われた。
1944年8月以降、沖縄が戦場になるなかで図書館活動は中断し、建物も資料も戦禍で焼けた。県の記録は「灰燼に帰しました」と書いている。伊波普猷の時代から集めてきた郷土資料も、その多くが失われた。
戦後の1947年8月9日、県民の強い支援で「沖縄中央図書館」として再建される。初代館長は、戦前の最後の館長でもあった城間朝教。同じ年の10月には首里分館も開館した。
このシリーズでは、焼けた図書館を何度か取り上げてきた。宮崎は隣家からの類焼、鹿児島は西南戦争で焼けた城跡の上に建つ。だが住民を巻き込んだ地上戦のただなかで焼かれ、県ごと一から立て直した図書館は、沖縄のほかにない。
郷土資料が、蔵書の3分の1を超える
戦後の沖縄県立図書館は、失われたものを取り戻す仕事を続けてきた。
いまの蔵書は978,087冊(2025年4月1日現在)。その内訳がこの館の性格をよく表している。
| 区分 | 冊数 |
|---|---|
| 一般図書 | 441,753 |
| 児童図書 | 68,675 |
| 郷土資料 | 351,682 |
| 広域サービス | 115,977 |
郷土資料が35万冊、全体の3分の1を超える。県立図書館が郷土資料を重視するのはどこも同じだが、3冊に1冊以上というのはかなり高い比率だ。焼けた棚を埋め戻すように、戦後80年かけて沖縄に関する資料を集め直してきた結果だ。
5階は郷土資料のフロアで、階段の壁には国指定重要文化財「琉球国之図」の複製が大きく掲げられている。移民資料コーナーもある。沖縄は戦前から多くの移民を南米やハワイへ送り出してきた県で、海外の県系人が自分のルーツをたどる「沖縄県系移民一世ルーツ調査」は、2017年度の地方創生レファレンス大賞で文部科学大臣賞を受けた。
2018年、バスターミナルの上へ
那覇市寄宮にあった旧館は、老朽化と資料を置く場所の不足に悩んでいた。2014年に新県立図書館基本計画がまとまり、2018年12月15日、新館が開館する。
場所は那覇市泉崎、那覇バスターミナルの再開発ビル「カフーナ旭橋A街区」。1階がバスターミナル、2階が観光情報センターと商業施設、3階から5階が図書館、6階に就職相談の「グッジョブセンターおきなわ」が入る。ゆいレール旭橋駅とも2階でつながっている。
延床面積は約13,085㎡で旧館の約2倍、座席は528席、収蔵能力は約140万冊。約50万冊を収める自動化書庫も備える。コンセプトは「琉球・沖縄の知と心 文化創造のランドマーク」。3階から5階は吹き抜けでつながり、3階には畳敷きの読み聞かせスペース「おはなしの森」、4階にはビジネスエリアと読書専用の「サイレントルーム」、英語・韓国語・中国語の多文化エリアがある。
開館時間は20時まで延ばされた。県知事は開館式で、新館が伊波普猷の願った「真の価値のある図書館」になることを祈念している。
本当に、狭くなった
そして伊波普猷の願いは、108年後に文字どおりかなった。
バスとモノレールの結節点という立地もあって、新館には人が殺到した。2019年2月には、1日の来館者が約7,000人に達した日がある。開館前から入口に人が並び、開館と同時に館内を走って席を取り合う。来館者の多くは、試験勉強の場所を探す学生だった。
旧館では、図書館の資料を使わない自習は閲覧室で認めていなかった。だが新館は、自習を締め出すのではなく受け入れる方向に舵を切る。
- 自習を「図書館の資料を用いない学習活動」と定義
- 座席を用途別に5種類に分け、そのうち一部を「自主学習可能席」に
- 色分けした座席札とポスターで区分を周知
- 試験期間にはセミナー室の一部を自習室として開放
2019年12月からの試行では、アンケートで9割以上が自習スペースを求めていた。そして2024年3月からは、自主学習席とビジネスエリア席を合わせた237席を事前予約できる仕組みも始まった。利用者カードがあれば利用日の3日前からWebで予約でき、1回最長3時間、空いていれば何度でも延長できる。来館したらチェックインしてレシートを発券し、予約時間を15分過ぎると自動でキャンセルになる。カードがない旅行者でも、当日カウンターで受け付けてもらえる。
席の区分もはっきりしている。ノートPCで打鍵音を出しながら作業するなら「ビジネスエリア」(90席)、自分の参考書や問題集に没頭するなら「自主学習可能席」(147席)。目的で席を選ぶ仕組みなので、周りを気にせず集中しやすい。
このシリーズの「自習ルール比較」を、最後の一館で締めくくるならこうなる。満席を嘆くのではなく、満席を前提に席の使い方を設計し直した図書館。「早く狭くなれ」と言われた館が本当に狭くなったとき、その狭さとどう付き合うかまで考えた結果がここにある。
設備とアクセス
開館時間は9:00〜20:00。休館日は毎週火曜日で、月曜休館の館が多いなかでは珍しい。ほかに年末年始と特別整理期間が休館で、2026年は11月10日〜24日が特別整理による休館になっている。訪問予定の人は公式カレンダーで確認を。
館内は3〜5階の主要エリアで無料Wi-Fiが使え、ビジネスエリアなどに電源付きの座席がある(開館時の発表では約50席)。
アクセスは抜群だ。ゆいレール旭橋駅から2階の連絡通路で直結、那覇バスターミナルの真上。那覇空港からはゆいレールで約12分で着く。一方で図書館専用の駐車場はなく、車の場合はカフーナ旭橋A街区の有料駐車場(270台)を使うことになる。長時間の自習や調べものなら、駐車料金を気にしなくていいバスかモノレールで来るのが正解だ。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 沖縄県那覇市泉崎1丁目20番1号 カフーナ旭橋A街区3〜6階 |
| アクセス | ゆいレール「旭橋駅」直結/那覇バスターミナル直上/那覇空港からゆいレール約12分 |
| 開館時間 | 9:00〜20:00 |
| 休館日 | 毎週火曜日・年末年始・特別整理期間(2026年は11/10〜11/24) |
| 蔵書数 | 978,087冊(うち郷土資料351,682冊、2025年4月1日現在) |
| 開館 | 2018年12月15日(創立1910年) |
| 規模 | 延床面積約13,085㎡、座席528席、収蔵能力約140万冊 |
| Wi-Fi | あり(館内無料) |
| 電源 | あり(ビジネスエリアなどの電源付き座席、開館時約50席) |
| 学習室 | 自主学習可能席147席・ビジネスエリア90席(Web予約は3日前から、1回3時間、15分遅れで自動キャンセル) |
| 駐車場 | 専用駐車場なし(カフーナ旭橋A街区の有料駐車場270台) |
| 併設施設 | 那覇バスターミナル・沖縄観光情報センター・商業施設・グッジョブセンターおきなわ |
| 公式サイト | 沖縄県立図書館 |
こんな人におすすめ
- 那覇空港に着いたその足で、まず沖縄の本に触れたい人
- 伊波普猷から続く、沖縄の郷土資料の厚みを体感したい人
- 自分や家族のルーツを、移民資料からたどってみたい人
- 席を事前予約して、確実に自習の場所を確保したい人
- 国際通りや首里城と組み合わせて、那覇の一日を組み立てたい人
- 北海道から始まった県立図書館めぐりを、最南端で締めくくりたい人
周辺スポット
国際通り・第一牧志公設市場
那覇のメインストリート・国際通りと、その脇道に広がる市場の一帯。公設市場は1階で買った魚介を2階の食堂で調理してもらう「持ち上げ」方式で知られる。図書館で郷土資料を読んだあと、沖縄の食文化を実地で確かめに行くのにちょうどいい距離だ。
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琉球王国の王城。2019年の火災で正殿などを焼失し、現在は復元工事が進んでいる。工事の過程そのものを公開する「見せる復興」が行われていて、焼けた文化を立て直すという点では、沖縄戦から再建された県立図書館と重なる。旭橋駅からゆいレール一本で行ける。
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図書館のある旭橋は、那覇空港からゆいレールで約12分。国際通りや県庁前のホテル街にも歩いて行ける、那覇観光のど真ん中です。バスターミナル直結なので、本島各地への移動拠点にもなります。
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