母と子の20分と、夜9時の学習室——鹿児島県立図書館
鶴丸城の二之丸跡、西南戦争の最終日に焼けた場所に建つ県立図書館。かつて館長を務めたのは児童文学作家の椋鳩十で、「母と子の二十分間読書運動」はここから全国へ広がった。平日は夜9時まで開館し、3階には中学生以上が使える学習室がある。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 4 #44は鹿児島県立図書館。
前回の宮崎は、一度焼けて県民の本で立て直された図書館だった。鹿児島の県立図書館が建つ土地も、やはり一度焼けている。ただしこちらは、日本最後の内戦の最終日に。
西南戦争の最終日に焼けた場所
鹿児島県立図書館があるのは、鹿児島市城山町。島津家の居城・鶴丸城の二之丸跡である。
1877年(明治10年)9月24日。西南戦争の最終日、城山に立てこもった西郷隆盛らへの総攻撃のなかで、二之丸は官軍の攻撃を受けて焼失した。
その後この土地は、旧制の第七高等学校造士館の敷地になり、戦後は鹿児島大学医学部のグラウンドとして使われた。そして1980年(昭和55年)1月12日、現在の県立図書館が開館する。
このシリーズでは「土地の来歴」を何度も書いてきた。前回の宮崎も大学農学部の跡地だったが、鹿児島の層はさらに厚い。城、戦場、旧制高校、大学のグラウンド、図書館。同じ一画が、時代ごとにまったく違う役目を負ってきた。
1902年、九州の三県がそろって
県立図書館としての始まりは、1902年度(明治35年度)にさかのぼる。初代文部大臣・森有礼の功績を記念して、鹿児島県私立教育会が附属図書館を建てたのが出発点だ。1909年度に私立鹿児島図書館と改称し、1912年度に県へ移管されて県立図書館になった。
ここで気づくことがある。大分も宮崎も、県立図書館の起点は1902年、しかもどちらも教育会の図書館だった。九州南部の三県が同じ年に、同じ担い手から図書館を始めている。偶然にしてはそろいすぎで、明治30年代の教育会がいかに図書館づくりの中心にいたかがわかる。
1927年(昭和2年)には、二之丸跡に本格的な図書館の建物が落成した。この建物はいまも隣に残っていて、県立博物館として使われている。国の登録有形文化財だ。新旧の県立図書館が、同じ敷地に並んで建っていることになる。
館長は、椋鳩十だった
この図書館を語るうえで外せないのが、児童文学作家の椋鳩十である。
『大造じいさんとガン』『片耳の大シカ』の作者は、1947年から約19年間、鹿児島県立図書館の館長を務めた。教科書で名前を知っている作家が、20年近く県立図書館の館長だったことになる。
椋鳩十が館長として広めたのが「母と子の二十分間読書運動」だ。子どもが教科書以外の本を20分読み、それを母親が横で聞く。それだけの、ごく簡単な約束である。椋鳩十はこの運動に名前をつけ、県内各地に広めていった。運動は全国に知られるようになり、いまも「親子20分間読書」「1日20分読書」として鹿児島で受け継がれている。
このシリーズの「児童書の答え」で見てきたのは、子どもの本棚をどう作るかという話が多かった。鹿児島の答えはもう一歩踏み込んでいて、本棚ではなく家庭の20分を作ろうとした。図書館の外で読書が起きる仕組みを、図書館長が考えたわけだ。
2011年度からは、親子で同じ一冊を読み、心に残る「宝本」を見つける「おやこ一冊読書」も始まっている。館内には椋鳩十文学碑もある。
平日は夜9時まで開いている
訪れる人にとって大きいのは、開館時間の長さだ。
火曜から土曜は9時から21時まで。日曜・祝日は17時まで。県立図書館で平日21時まで開けているところは、全国的に見ても多くない。前回までに書いた大分は2026年4月に平日の閉館を20時から19時に早め、宮崎は19時まで。九州のなかでも、鹿児島の夜の長さは際立っている。
3階には619.5㎡、約240席の学習室がある。中学生以上が持ち込みの参考書や問題集で自習するための公式の部屋で、予約は不要。隣には電卓使用ルームまで付いている。空席状況は公式サイトの「学習室の利用状況」ページで、「十分に空席があります」「ほぼ満席です」といった段階表示で確認できる。
面白いのは、図書館が閉まっている日にも学習室だけが開くことだ。
- 毎月25日の整理研修日は、学習室のみ9:00〜17:00に開室
- 年末の12月29日・30日も、学習室のみ9:00〜17:00に開室
このシリーズの「自習ルール比較」でいえば、自習を「遠慮してもらうもの」として扱う館もあれば、臨時に部屋を開放する館もあった。鹿児島は逆で、図書館本体が休んでいても自習の場所だけは開け続ける。受験生の多い時期に、ここまで踏み込んでいる県立図書館は珍しい。
方言ライブラリーと、薩摩辞書の碑
鹿児島らしい資料もいくつかある。
2階の方言ライブラリーは1987年の開設で、鹿児島方言を収録した資料を所蔵している。全国でも聞き取りが難しいことで知られる鹿児島弁を、記録として残しておく場所だ。
作家・海音寺潮五郎の記念事業として、文化講演会や文芸ゼミナールが開かれ、館内には書斎も再現されている。
敷地内には「薩摩辞書の碑」もある。明治初めに薩摩藩士らが編んで刊行した英和辞書、通称「薩摩辞書」を記念したもので、外の世界に学ぼうとした薩摩の気風を伝えている。春には淡墨桜も咲く。
設備とアクセス
蔵書は950,767冊(2025年度末時点)。1階に新聞・雑誌と郷土関係の出版物を置いた一般閲覧室、児童文化室、大研修室。2階に約98,000冊を開架で並べた閲覧室と方言ライブラリー。3階が学習室と電卓使用ルームだ。
駐車場は無料で81台。係員がいて、駐車券に検印をもらう方式になっている。
ノートPCを使うなら、2階一般閲覧室のパソコン使用コーナーへ。コンセントがあり、利用したいときは1階カウンターに申し出る。一方、館内に利用者向けのフリーWi-Fiはない。調べものはテザリングなど自前の回線で、と考えておいたほうがいい。
天文館から歩ける距離で、城山観光の一部として組み込みやすい。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 鹿児島県鹿児島市城山町7番1号(鶴丸城二之丸跡) |
| 開館時間 | 火〜土 9:00〜21:00(児童文化室は19:00まで)/日祝 9:00〜17:00 |
| 休館日 | 毎週月曜日(祝日の場合は翌日)・毎月25日(土日は開館)・年末年始(12/29〜1/3)・特別整理期間 |
| 学習室 | あり(3階・約240席、中学生以上、予約不要。25日・12/29〜30も学習室のみ9:00〜17:00開室) |
| Wi-Fi | なし(利用者向けの無線LANなし) |
| 電源 | あり(2階パソコン使用コーナーのみ、1階カウンターで申込) |
| 蔵書数 | 950,767冊(2025年度末) |
| 開館 | 1980年1月(起点は1902年度、県立移管は1912年度) |
| 規模 | 鉄筋コンクリート造3階建(一部4階)、建物面積11,294.53㎡ |
| 駐車場 | あり(無料81台、駐車券に検印が必要) |
| 公式サイト | 鹿児島県立図書館 |
こんな人におすすめ
- 平日の夜、仕事や学校のあとに県立図書館を使いたい人
- 図書館が休みの日にも開く学習室で、腰を据えて勉強したい人
- 椋鳩十と「母と子の二十分間読書運動」の原点を訪ねたい人
- 鶴丸城跡や西南戦争の史跡とあわせて、城山一帯を歩きたい人
- 旧県立図書館(現・県立博物館)と新館を見比べてみたい人
周辺スポット
鹿児島県立博物館(旧鹿児島県立図書館)
1927年(昭和2年)に落成した、かつての県立図書館の建物。現在は県立博物館として使われ、国の登録有形文化財になっている。鹿児島の自然史を中心とした展示で、入館は無料。いまの図書館と並べて見ると、同じ二之丸の敷地で図書館が建て替わってきた流れがよくわかる。
Google Mapsで見る ›鶴丸城跡(御楼門・黎明館)
島津家の居城・鶴丸城の本丸跡。2020年に復元された御楼門は、高さ約20mの国内最大級の城門だ。石垣には西南戦争の弾痕がいまも残る。本丸跡には県歴史・美術センター黎明館が建ち、薩摩の歴史をまとめて見られる。背後の城山展望台まで登れば、桜島が正面に見える。
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