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·滋賀県大津市瀬田南大萱町·約15分

130万冊に、35席——滋賀県立図書館

蔵書130万冊に対して、閲覧席はわずか35席。持ち込みの自習もできない。滋賀県立図書館は、館内で読ませることを前提にしていない図書館だ。その代わり滋賀県は、県民1人当たりの貸出数で長く全国1位を走ってきた。1980年に着任した一人の館長が、この県の図書館を作り変えた。

滋賀県立図書館のイメージ

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。

Phase 4 #22は滋賀県立図書館。大津市瀬田、びわこ文化公園の文化ゾーンにある。JR瀬田駅からバスで10分、「文化ゾーン前」下車徒歩5分。

数字をふたつ並べたい。蔵書1,308,000点、閲覧席35席。


館内で読ませない図書館

130万冊を抱えて、座れるのは35席。前回の三重県立図書館が216席、岐阜が270席、福井にいたっては508席だったことを思うと、桁が違う。しかも三重と同じく、持ち込みの参考書による自習はできない

設備が足りないわけではない。これは思想だ。

滋賀県立図書館は、館内で本を読ませることを前提にしていない。貸出は1人10冊まで3週間。借りて、家で読む。だから席は最小限でいい——そういう設計になっている。

その代わり、滋賀県は驚くべき数字を持っている。県民1人当たりの貸出点数が、2001年から2013年まで13年連続で全国1位。2014年以降も東京都に次ぐ2位を保っている。職員の司書有資格者率も全国1位だ。

滋賀県民は、本をよく借りる。それも圧倒的に。この図書館の35席という数字は、その裏返しなのだ。


1980年、49歳の館長が来た

だが、最初からそうだったわけではない。

1980年代初頭、滋賀県内の公立図書館は10館もなかった。県民1人当たりの貸出冊数は年1冊前後。全国的に見て下位レベルだった。いまの姿からは想像しにくい。

転機は1980年(昭和55年)、現在地への新館移転と同時に訪れる。

当時の武村正義知事は、教育委員会の文化振興課長に「館長をさがせ」と命じていた。白羽の矢が立ったのが、東京都日野市にいた前川恒雄である。1965年から9年間、日野市立図書館長を務め、その後は日野市の助役・部長職にあった人物だ。滋賀県の人事課長が日野市まで足を運んで口説き、1980年、49歳で滋賀県立図書館長に就任した。1990年代初頭まで、10年余りこの館を率いることになる。

前川の名は、このシリーズですでに一度すれ違っている。山梨県立図書館の回で触れた鬼頭梓——日野市立図書館を設計した建築家だ。前川が館長として構想し、鬼頭が建築として形にしたのが、あの日野市立図書館だった。戦後日本の公共図書館のかたちを作った仕事が、建築の側からは山梨に、運営の側からは滋賀に流れ着いている。図書館を巡っていると、こういう糸がときどき見える。

前川の方針のひとつが伝わっている。予約でリクエストされた本は、内容にかかわらず購入して提供する。 図書館が選ぶのではなく、読みたい人が決める。徹底している。


県立が、市町村立を育てた

前川の仕事は、この建物のなかだけでは終わらなかった。

1980年3月、滋賀県図書館振興対策委員会が「図書館振興に関する提言」を発行する。翌1981年には協力車の運行を開始し、代わりに移動図書館「しらゆき号」を廃止した。県立が自ら本を届けて回るのをやめ、市町村立図書館へ本を送る仕組みに切り替えたのだ。

同じ1981年、県教育委員会は市町村立図書館への建設費・図書費の補助を始める。1982年には貸出冊数制限を3冊から5冊に緩和し、郵送貸出も開始した。

ここが滋賀の要点だと思う。県立図書館は、自分が貸す量を増やすのではなく、県内に図書館を作らせることで貸出を増やした。10館なかった公立図書館が県内各地に建ち、住民は身近な場所で本を借りられるようになる。県立はその後ろで資料を供給する。

この仕組みは今も生きている。県立の資料はネットで予約して、県内の市町立図書館で受け取り・返却ができる。瀬田の丘まで来なくていい。35席しかない理由が、ここでもう一度腑に落ちる。そもそも、来なくても本が届くように作られている。

前回の三重県立図書館は、1987年に津市図書館ができるまで市立図書館の役割を代行していた。県立が市立の不在を埋めていた。滋賀は逆で、県立が市立を作らせた。同じ県立図書館という制度でも、どちらに動くかで県全体の姿が変わる。


児童書を、全部買う

もうひとつ、滋賀には際立った取り組みがある。

1988年(昭和63年)から、日本国内で刊行される児童書をすべて購入している。 年間4千点以上が出版されるなか、それを全点。かつては全国の都道府県で唯一の取り組みだった。絵本・読み物・知識の本と分類し、中学生までを対象としている。

前回の静岡県立中央図書館は、児童書を一切所蔵していなかった。子ども向けの機能を別の施設に移し、大人の調べものに振り切った館だった。滋賀はその正反対で、国内で出る子どもの本を漏れなく抱え込むという選択をしている。

児童室には約4万冊が並ぶ。授乳室もあり、館内の多目的トイレではおむつ替えもできる。

県立図書館というのは、県の数だけ答えがある。連日で書いていると、それが本当によく分かる。


商品陳列所から始まった

沿革も触れておきたい。

滋賀県立図書館の開館は1943年(昭和18年)6月20日。場所は大津市神出筒井の滋賀県商品陳列所だった。戦時下の開館である。

1947年に大津公民館へ、1954年には滋賀会館へと移転を重ねる。この間、1956年に移動図書館「ほたるび号」、1958年に「しらゆき号」の運行を開始。1961年には第1回「本を読むお母さん大会」が開かれている。

そして1980年4月、びわこ文化公園の文化ゾーンへ移転。7月10日に開館し、翌11日から一般利用が始まった。

商品陳列所の一室から、130万冊へ。80年あまりの道のりだ。


設備とアクセス

閲覧席35席の内訳を補足すると、開架は一般資料室に約15万冊、参考資料室に約6万冊、児童室に約4万冊。残りは書庫にある。休日は席の確保が難しいので、長時間の滞在を当て込まないほうがいい。

大きなカバンは持ち込めず、コイン返却式のロッカーに預けるルールになっている。手ぶらで棚に向かう前提の設計だ。

Wi-Fiは「びわ湖Free Wi-Fi」が使える(1回24時間)。パソコンの持ち込みと電源の利用も可能だが、電源のある席はごく限られる。そもそも35席の館なので、長時間パソコンを使うつもりならモバイルバッテリーを持っていったほうが確実だ。館内にはレストランも入っているので、食事で外に出る必要はない。

なお貸出カードを作れるのは、滋賀県内に在住・在勤・在学している人に限られる。県外から訪ねる場合は、閲覧とレファレンス目的になる。

駐車場はびわこ文化公園の東・西駐車場が無料で使える。障害のある人は、図書館入口前の専用駐車場まで車で乗り入れることができる。ただし公園でイベントがある日は混雑するので、その点は頭に入れておきたい。

開館時間は水曜から金曜が10:00〜18:00、土日祝が10:00〜17:00。休館日は月曜と火曜の週2日で、さらに祝日の翌日と年末年始が休みになる。平日に開いているのは水・木・金だけなので、このシリーズで最も訪問日を選ぶ館かもしれない。カレンダーの確認は必須だ。


基本情報

項目内容
住所滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1(びわこ文化公園 文化ゾーン内)
アクセスJR琵琶湖線「瀬田駅」から帝産バス・近江バス(滋賀医大方面)で「文化ゾーン前」下車 徒歩5分
開館時間水〜金 10:00〜18:00 / 土日祝 10:00〜17:00
休館日毎週月曜日・火曜日・祝日の翌日・年末年始
開館1980年7月10日(1943年6月20日に大津市神出筒井で開館、3度の移転を経て現在地へ)
蔵書数1,308,000点(開架は一般約15万冊・参考約6万冊・児童約4万冊)
閲覧席35席 ※持ち込み自習は不可
貸出10冊まで3週間(貸出カードは県内在住・在勤・在学者のみ)/県内の市町立図書館で受け取り・返却が可能
Wi-Fiあり(びわ湖Free Wi-Fi/1回24時間)
電源あり(PC持ち込み可・席数は限定的)
駐車場あり(びわこ文化公園 東・西駐車場/無料。公園のイベント時は混雑)
その他大きなカバンはコインロッカーへ/レストラン併設
公式サイト滋賀県立図書館

こんな人におすすめ

  • 滋賀県内に住んでいて、読みたい本をどんどん借りたい人
  • 国内で刊行された児童書を網羅的に探したい人(1988年以降は全点所蔵)
  • 図書館が地域を変えた実例を、現場で確かめたい人
  • 隣の滋賀県立美術館や夕照の庭とあわせて、丘の上で一日過ごしたい人
  • 長時間こもりたい人には向かない——35席しかなく、持ち込み自習も不可

周辺スポット

文化施設

滋賀県立美術館

図書館のすぐ隣に建つ県立美術館。2021年に「滋賀県立近代美術館」から名称を変えてリニューアル開館した。日本画家・小倉遊亀や、アール・ブリュットのコレクションに力を入れているのが特徴で、芝生に開いたロビーは入館料なしでも過ごせる。図書館と美術館が同じ敷地にあるので、一日の組み立てが楽になる。

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隣接(びわこ文化公園内)
自然・公園

夕照の庭

びわこ文化公園のなかにある約2万平方メートルの池泉回遊式庭園で、造園家の伊藤邦衛が設計した。1985年の開園で、1987年には茶室「夕照庵」も開いている。瀬田丘陵の起伏をそのまま生かした造りで、園路を一周すると景色が次々に変わる。借りた本をすぐ読みたくなったら、ここのベンチが近い。

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徒歩圏内(びわこ文化公園内)

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