机の寸法から、建物を決めた——佐賀県立図書館
閲覧机と書架の寸法から、建物全体の設計を決める。1963年に開館した佐賀県立図書館は、内田祥哉のモデュール理論にもとづいて設計された建築で、2022年にDOCOMOMO JAPANに選定された。設計は高橋靗一と内田祥哉。そして毎月最後の水曜日しか休まない、週定休のない県立図書館でもある。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 4 #38は佐賀県立図書館。佐賀市城内、佐賀城のお堀の内側にある。JR佐賀駅から徒歩20分、バスなら約10分。
1963年(昭和38年)2月の開館。鉄筋コンクリート造、延床4,277平方メートル。2022年、DOCOMOMO JAPANが選ぶ「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選定されている。
この建物の設計の考え方が、少し変わっている。
机と書架から、建物を決める
設計を手がけたのは、高橋靗一(第一工房)と内田祥哉。構造設計は植木襄、施工は松尾組。
内田祥哉(1925〜2021)は、建築の構法とモデュール(寸法体系)の研究で知られる建築家だ。佐賀県立図書館には、内田の「Dφモデュール」によるモデュラーコーディネーションが導入されている。
これが何かというと——閲覧机と書架の配置から寸法を設定し、そこを起点に建物全体を設計したということである。
ふつう建築は、敷地と用途から全体の形を決めて、そのなかに家具を並べていく。佐賀は逆をやった。家具の寸法が先にあって、建物があとから決まる。
このシリーズでは、機能から形を決めた図書館をひとつ見ている。#29の島根県立図書館だ。菊竹清訓は、レファレンスサービスがこれからの図書館で重要になると見越して、閲覧室をL字型にし、その要に司書を置く平面を考案した。1968年である。
島根は司書の位置から建築を決めた。佐賀は机の寸法から建築を決めた。どちらも1960年代で、どちらも「図書館とは何をする場所か」という問いに、建築の側から答えを出している。
外観で目を引くのは、大きく張り出したバルコニーだ。その手すりの形が独特で、建築好きの訪問記ではたいていここが話題になる。階段にちょこんとタイルが埋め込まれていたりもする。1階は近年リノベーションされ、外側にカフェやテラスが拡張された。
設計者は、東京都立中央図書館も建てた
高橋靗一(1924〜2016)の名前は、このシリーズですでに一度登場している。
#11で書いた東京都立中央図書館。1972年に開館したあの館の設計者が、高橋靗一である。
佐賀が1962年竣工、東京都立中央が1972年。10年を挟んで、同じ建築家が県立図書館と都立図書館を建てたことになる。ちなみに高橋はこのあと、1974年に前橋市立図書館も手がけている。
そして佐賀にはもう一つ、この二人の仕事がある。佐賀県立博物館(1970年)。日本建築学会賞の作品賞を受け、2003年にDOCOMOMOの選定も受けた建物で、図書館から歩いて10分のところに建っている。コンクリートの箱が宙に持ち上がったような、図書館よりずっと大胆な造形だ。
同じ設計者コンビが、同じ城内の敷地に、7年の間隔で建てた2棟。設計者がどう変わったかを、歩いて確かめられる場所というのは、そうあるものではない。隣には坂倉準三が設計した市村記念体育館もある。佐賀城の堀の内側は、戦後建築の密度がかなり高い。
鍋島家が建て、県に渡した
館そのものの始まりは、1913年(大正2年)11月にさかのぼる。鍋島家によって図書館が建設された。
翌1914年(大正3年)2月11日、佐賀図書館として開館し業務を開始する。鍋島侯爵家佐賀図書館——つまり旧佐賀藩主家が建てた私設の図書館だった。
1929年(昭和4年)3月、鍋島家から佐賀県へ移管。同年4月に県立佐賀図書館として開館する。そして1950年(昭和25年)7月30日、図書館法にもとづく佐賀県立図書館となった。
このシリーズでは、大名家と図書館の関係を何度か書いてきた。和歌山は紀州徳川家の徳川頼貞が集めた南葵音楽文庫、徳島は蜂須賀家の阿波国文庫。どちらも蔵書が県立図書館へ渡った話だった。
佐賀は建物ごとである。鍋島家が建てて15年運営し、そのまま県に渡した。
1962年11月に改築新館が竣工し、翌1963年に現在の館が開館する。
週に一度の、定休日がない
利用面でいちばん驚いたのが、休館日の設定だ。
月例休館日:毎月最後の水曜日
これだけである。あとは特別整理期間(年1回1週間程度)と年末年始(12月30日〜1月3日)のみ。
週に一度の定休日がない。 この連載で回ってきた県立図書館は、ほぼ例外なく月曜休館だった。鳥取が月曜も開けていて珍しいと書いたが、あちらも毎月第2木曜と月末日が休みだった。佐賀は月に1日しか休まない。
しかも閲覧室は夜8時まで開いている。奈良県立図書情報館の20時、岡山の19時と並ぶ長さだ。
部屋ごとに時間が違うので、そこは整理しておきたい。
| 室 | 開館時間 |
|---|---|
| 閲覧室・新聞閲覧コーナー | 9:00〜20:00 |
| 資料調査室 | 9:00〜17:00(受付は16:30まで) |
| 児童図書閲覧室 | 10:00〜17:00 |
| こころざしの森 | 10:00〜18:00 |
| みんなの森 | 10:00〜17:00 |
| 好生館分室 | 8:30〜17:30 |
17時以降の貸出・返却は、2階のカウンターで受け付けている。
病院のなかに、分室がある
もうひとつ特筆すべきなのが、好生館分室だ。
佐賀市嘉瀬町の佐賀県医療センター好生館——県立病院のなかに、県立図書館の分室が置かれている。都道府県立図書館では初めての分室とされ、病院のがん相談支援センターと連携したレフェラルサービスを提供している。
レフェラルサービスというのは、求められた情報そのものではなく、それを持っている人や機関を紹介する仕事のことだ。病気について調べたい人に、資料と相談窓口の両方へ橋を渡す。
延床面積はわずか25平方メートルほど。だが病院利用でない人も使える施設として開かれていて、日野原重明にちなんだ「日野原文庫」も置かれている。
このシリーズでは、兵庫の震災資料、奈良の戦争体験文庫、鳥取のビジネス支援を書いてきた。県立図書館が、県立病院のなかに出張所を持つ。 課題解決型の図書館サービスとして、かなり踏み込んだ形だと思う。
自習のルールが、3段階に分かれている
この連載では自習の扱いを館ごとに追ってきたが、佐賀の運用はいちばん細かい。独立した専用の自習室はないかわりに、席の性格が3つに分かれている。
① 一般閲覧席——自習は可。ただし混雑時は譲る
キャレル席などの一般閲覧席では、持ち込みの参考書を広げた自習が認められている。ただしこれらの席は館の資料を使って調べものや読書をする人が優先で、テスト期間などの混雑時には、持ち込み資料だけで勉強している人は席を譲るよう案内されるルールになっている。
② 郷土資料室・資料調査室——自習は一律で不可
この2室の座席は専門的な研究やリサーチのためのもので、学生の試験勉強などでの利用は断られる。資料を使う人だけの場所として、完全に切り離されている。
③ 会議室——空いている時間帯に学習スペースとして開放
混雑状況に応じて、館内の会議室が使われていない時間帯に学習スペースとして無料開放される。手持ちの教材だけで勉強したいなら、ここを狙うのが確実だ。
大阪はイベントのない日に多目的室を開放し、兵庫は夏休みだけ第2研修室を開けていた。佐賀も同じ「空いている部屋を回す」型だが、一般席での自習も頭から否定せず、混雑時だけ優先順位を切り替えるという組み立てになっている。
禁止と許可の二択にせず、場所と混み具合で段階をつける。運用としてはいちばん柔らかく、そのぶん利用者側に判断が求められる。
設備とアクセス
蔵書は859,422点(2019年度末)。閲覧席は223席ほど。
Wi-Fiは館内全域で使える。接続に必要なIDとパスワードは館内に掲示されていて、カウンターでも教えてもらえる。有線LANはない。
電源は、電子情報コーナー「くすネット」の持ち込みパソコン利用優先席のほか、一般閲覧室内にも計13か所のコンセントが設置されている。パソコンだけでなくタブレットやスマートフォンの充電にも使える。改修後は広い自習室のような一室はなく、館内のあちこちに席が点在する構成になっているという。外のテラス席も使える。
貸出カードは、どなたでも作れる。 現住所・氏名・生年月日を確認できる書類があればよく、県内在住かどうかは問われない。貸出は15冊まで14日間。この連載では、県内在住者限定の館(滋賀、兵庫、徳島)や、隣接府県まで広げた館(京都、奈良)を見てきたが、佐賀は制限なしである。
駐車場は佐賀城公園駐車場と共用で、時間制限なしの完全無料。ただし同じ敷地に佐賀県立博物館・美術館や佐賀城本丸歴史館があるため、週末に特別展や文化イベントがある日は、昼前後に満車になりやすい。建物周りの駐車場は9:00〜20:00まで。
館内にはカフェがある。大きなガラス窓から佐賀城公園の楠の緑と水堀を眺めながら、コーヒーや軽食がとれる。長時間こもる日の息抜きとしては、かなり恵まれた環境だと思う。1階には食堂もあり、こちらは11:00〜14:30の営業。
そのほか1階には展示ホールと、「こころざしの森」「みんなの森」というオープンスペース。授乳室やベビーベッドもこの2室に置かれている。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 佐賀県佐賀市城内二丁目1番41号(佐賀城公園内) |
| アクセス | JR長崎本線「佐賀駅」から徒歩約20分/バス約10分 |
| 開館時間 | 閲覧室 9:00〜20:00/資料調査室 9:00〜17:00/児童図書閲覧室 10:00〜17:00/こころざしの森 10:00〜18:00 |
| 休館日 | 毎月最後の水曜日・特別整理期間(年1回1週間程度)・年末年始(12/30〜1/3)※週定休なし |
| 開館 | 1963年2月(1914年2月11日に鍋島家の佐賀図書館として開館、1929年に県へ移管) |
| 設計 | 高橋靗一(第一工房)+内田祥哉/構造設計:植木襄/施工:松尾組。2022年 DOCOMOMO JAPAN選定 |
| 建物 | RC造/建築面積1,697.68㎡・延床4,277.00㎡。内田祥哉のDφモデュールによるモデュラーコーディネーション |
| 蔵書数 | 859,422点(2019年度末) |
| 閲覧席 | 約223席 |
| 分室 | 好生館分室(佐賀県医療センター好生館内/都道府県立図書館で初の分室・がん相談支援センターと連携したレフェラルサービス・日野原文庫) |
| 自習 | 専用室なし。①一般閲覧席は自習可だが混雑時は資料利用者に席を譲る/②郷土資料室・資料調査室は一律不可/③会議室が空いている時間帯に学習スペースとして開放 |
| Wi-Fi | あり(館内全域/IDとパスワードは館内掲示。有線LANなし) |
| 電源 | あり(電子情報コーナー「くすネット」の持込PC優先席ほか、一般閲覧室内に計13か所) |
| 駐車場 | あり(時間制限なしの完全無料/佐賀城公園駐車場と共用。週末のイベント時は満車になりやすい) |
| 貸出 | 15冊14日間。どなたでも登録可(県外在住でも可) |
| 飲食 | 館内にカフェ(公園の緑と水堀を望む)/1階に食堂(11:00〜14:30) |
| 公式サイト | 佐賀県立図書館 |
こんな人におすすめ
- 戦後モダニズム建築を訪ね歩いている人(DOCOMOMO選定・東京都立中央図書館と同じ設計者)
- 佐賀県立博物館とあわせて、同じ設計者の7年後を見比べたい人
- 毎日夜8時まで、曜日を気にせず使える図書館を探している人
- 公園の緑を眺められるカフェつきの館で、一日こもりたい人
- 県外在住でも貸出カードを作りたい人
- 持ち込み教材で自習したい人(会議室の開放枠を狙うのが確実。混雑時は一般席を譲るルール)
- 病気や医療について、資料と相談窓口の両方にあたりたい人(好生館分室へ)
- 佐賀城本丸歴史館とあわせて、堀の内側を歩きたい人
周辺スポット
佐賀県立博物館・美術館
1970年開館の博物館は、県立図書館と同じ高橋靗一(第一工房)+内田祥哉の設計。1971年に日本建築学会賞(作品賞)を受け、2003年にDOCOMOMOの選定も受けている。コンクリートの箱が持ち上がったような外観は、図書館よりはるかに大胆だ。同じ設計者が7年後に何をしたかを、歩いて10分で確かめられる。
Google Mapsで見る ›佐賀城本丸歴史館
幕末期の佐賀城本丸御殿を木造で復元した歴史館で、復元建築としては国内有数の規模。鍋島直正をはじめとする幕末佐賀の近代化の歩みを展示していて、入館は寄付制になっている。図書館が建つ城内一帯は佐賀城の跡地で、県庁も学校も博物館もこの堀の内側に収まっている。
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