見えない読者のために、見えない人が建てた——日本点字図書館
1940年、全盲の青年・本間一夫が自分の点字本をもとに開いた小さな図書館は、いまでは点字図書と録音図書を製作し、全国の視覚障害者に郵送で無料で届ける日本最大級の点字図書館になった。ここは、目で読む人のための図書館ではない。Phase 5で最も「誰のための図書館か」がはっきりした一館。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 5 #10は東京・高田馬場の日本点字図書館。
ここまでの9館は、どれも「何を集めるか」にこだわった図書館だった。絵本、農業、作家の蔵書、寄贈本、雑誌、マンガ、子どもの本。今回の日本点字図書館がこだわっているのは、誰のために本をつくるかである。
先に書いておくと、ここは目で活字を読める人が本を借りに行く図書館ではない。それでも、このシリーズに入れたかった。
本間一夫という人
日本点字図書館を創ったのは、本間一夫(1915〜2003年)。幼いころに視力を失った人だった。
点字を覚えて本を読むようになった本間は、やがて気づく。点字の本が、圧倒的に少ないのだ。目の見える人には図書館も書店もある。だが点字を読む人が手に取れる本は、ほんのわずかしかない。
それなら、自分で図書館をつくればいい。1940年、本間は自分が持っていた点字の本をもとに、東京で小さな図書館を開いた。名前は「日本盲人図書館」。これがのちの日本点字図書館である。
目の見えない人のための図書館を、目の見えない人自身が建てた。この出発点が、80年以上たったいまも、この館の性格を決めている。
本を「つくる」図書館
日本点字図書館の仕事は、ふつうの図書館とは順番が逆だ。
ふつうの図書館は、出版された本を買って並べる。だが点字の本や、音声で聴く録音図書は、ほとんど市販されていない。だからこの図書館は、本を自分でつくるところから始める。
- 点字図書:活字の本を点字に訳し、印刷・製本する
- 録音図書:本を朗読して録音し、音声で聴ける形にする
館内には、図書を製作するための録音スタジオや、点字の印刷室がある。職員とボランティアが、一冊ずつ本を「読める形」に変えている。2005年時点の蔵書は、点字図書約9万8,000冊、録音図書約34万巻にのぼった。
Phase 4の埼玉県立久喜図書館の記事では、県立図書館が70年以上続けてきた「読書バリアフリー」の取り組みを紹介した。日本点字図書館は、その仕事を民間の図書館として、全国規模で担ってきた存在だ。
全国へ、無料で届ける
つくった本は、全国の利用者に郵送で、無料で貸し出される。
視覚障害のある人や、活字を読むことが難しい人なら、誰でも利用登録ができる。来館、電話、点字や墨字(ふつうの文字)の手紙、FAX、インターネットで借りたい本を申し込めば、点字図書や録音図書が自宅に届く。郵送料もかからない。借りられる期間は、手元に届いてから2週間だ。
視覚障害のある人にとって、図書館まで出かけていくこと自体が大きなハードルになる。だったら本のほうから出向けばいい。点字図書館が「郵送で貸す」ことを基本にしているのは、そのためだ。
いまでは、全国の点字図書館が製作したデータをインターネットで共有できる「サピエ図書館」という仕組みもある。日本点字図書館の利用者は、ここを通じて他館がつくった本も借りられる。
目の見える人が訪ねるなら
では、目の見える旅行者がこの図書館を訪ねて、何ができるのか。
館内見学ができる。開館日の水曜日と金曜日、午前10時からか午後2時30分からの回で、職員が館内を案内してくれる。所要時間は1時間から1時間半ほど。図書製作用の録音スタジオ、点字の印刷室、点字・録音図書の書庫など、ふだんは見られない場所をめぐる。書庫は閉架式で、ふつうは一般に開放されていない。見学は予約制で、1週間前ごろまでに電話かメールで申し込む。
もう一つは、用具ショップだ。点字器、音声で時刻を知らせる時計、触ってわかる道具など、視覚障害のある人の暮らしを助ける用具が並ぶ(9:00〜16:00)。こういう道具があることを知るだけでも、世界の見え方が少し変わる。
そして、目の見える人がいちばん「図書館」として使えるのが、館内の視覚障害関係活字資料室(奥村文庫)だ。視覚障害、点字、盲教育、福祉などに関する活字の本や雑誌が集められていて、一般の人も閲覧でき、調べものの相談(レファレンス)にも応じてもらえる。視覚障害について学びたい学生や、福祉の仕事をしている人にとっては、ほかでは見つからない資料にあたれる場所だ。
閲覧室には約30種類の点字雑誌が置かれ、弱視の人のための拡大読書器もある。
本を借りることはできなくても、「本を読める形にする」という仕事の現場を見ることはできる。図書館とは本を貸す場所だ、という思い込みをいちばん揺さぶってくれるのは、Phase 5の中でもこの館かもしれない。
設備とアクセス
JR山手線・西武新宿線・東京メトロ東西線の高田馬場駅から歩いて行ける距離にある。
開館は火曜日〜土曜日の9:00〜17:00(用具ショップは16:00まで)。休館日は日曜日・月曜日・祝日・年末年始。館内見学は水・金のみで、要予約。
駐車場はない。利用者向けのWi-Fiやコンセントもなく、持ち込みの参考書で勉強する自習の場でもない。来館の前に、見学やショップの利用について公式サイトで確認しておきたい。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 東京都新宿区高田馬場1-23-4 |
| アクセス | JR・西武・東京メトロ「高田馬場駅」から徒歩圏 |
| 開館時間 | 火〜土 9:00〜17:00(用具ショップは9:00〜16:00) |
| 休館日 | 日曜日・月曜日・祝日・年末年始 |
| 利用対象 | 視覚障害のある人、活字を読むことが困難な人(図書の貸出) |
| 貸出 | 郵送で無料(点字図書・録音図書、届いてから2週間) |
| 蔵書 | 点字図書 約9万8,000冊・録音図書 約34万巻(2005年時点) |
| 創立 | 1940年(本間一夫が「日本盲人図書館」として開設) |
| 館内見学 | 水・金曜日 10:00〜/14:30〜(予約制、1〜1.5時間) |
| 一般の閲覧 | 視覚障害関係活字資料室(奥村文庫)は一般の人も閲覧・レファレンス可 |
| Wi-Fi・電源 | なし |
| 学習室 | なし |
| 駐車場 | なし |
| 公式サイト | 日本点字図書館 |
こんな人におすすめ
- 点字図書や録音図書が、どうやってつくられているのかを見てみたい人
- 「図書館は誰のためにあるのか」を、あらためて考えてみたい人
- 家族や身近な人に、視覚障害のある人がいる人
- 点字や録音図書の製作ボランティアに関心がある人
- 視覚障害や福祉について、専門の活字資料で調べものをしたい人
- 早稲田の演劇博物館や村上春樹ライブラリーとあわせて、高田馬場・早稲田を歩きたい人
周辺スポット
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