お寺が、本を「公衆」に開いた——成田山仏教図書館
1901年、成田山新勝寺の貫首・石川照勤は文部大臣に図書館の設置を届け出た。目的は「公衆ノ閲覧ニ供センガ為メ」。お寺が建てた図書館は、仏教書だけでなく漱石の初版本や明治の美術雑誌まで集め、120年以上続いている。大本堂の裏手、聖徳太子堂の下にある閉架式の私立図書館。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 5 #5は千葉県の成田山仏教図書館。
ここまでの4館は、町や作家や住民が「何か」にこだわった図書館だった。今回、こだわっているのはお寺である。
大本堂の裏、聖徳太子堂の下
成田山新勝寺は、年間の参拝者が全国でも有数の寺だ。JRや京成の成田駅から表参道を下り、総門、仁王門をくぐって大本堂へ。参拝客のほとんどは、ここで手を合わせて帰っていく。
その大本堂の左手、聖徳太子堂を過ぎた先の階段を下りたところに、成田山仏教図書館はある。
知っていなければまず気づかない場所だ。だがこの図書館は、120年以上前からずっとここで、本を貸したり見せたりし続けている。
「公衆ノ閲覧ニ供センガ為メ」
図書館を建てたのは、成田山中興第15世貫首の石川照勤(いしかわ・しょうきん)である。
1901年(明治34年)1月、石川照勤は文部大臣に図書館設置の開申書を出した。そこに書かれた目的が、次の一文だ。
公衆ノ閲覧ニ供センガ為メ内外ノ図書ヲ蒐集シ
公衆が読めるように、国内外の本を集める。お寺の僧侶のための書庫ではなく、誰でも読める図書館を作ると宣言したのである。
翌1902年2月、石川照勤自身の蔵書と、全国から寄せられた寄贈本あわせて15,500冊で「成田図書館」は開館した。1905年には館外貸出を始め、1907年6月には3階建てのレンガ造りの書庫が完成する。館はこの書庫の完成日、6月9日を創立記念日としている。
1902年という年
1902年と聞いて、Phase 4を読んでくれた人は思い当たるかもしれない。
九州の大分・宮崎・鹿児島の県立図書館は、どれも1902年に教育会の図書館として始まっていた。そして同じ年、関東ではお寺が図書館を開いていたことになる。明治30年代は、日本中で「図書館をつくろう」という動きが一斉に起きた時代だった。
ちなみに成田山仏教図書館は、自らを「千葉県で初めての図書館」と紹介している。一方、Phase 4で書いた千葉県立図書館は、1892年の千葉県教育会附属書籍館を起源としている。どちらを「最初」とするかは、書籍館を図書館に数えるか、届け出の時期をどう見るかで変わってくる。いずれにしても、千葉の図書館史の最初のページに、お寺の名前があることは間違いない。
仏教図書館なのに、漱石がある
名前は「仏教図書館」だが、蔵書は仏教書に限らない。
1988年の全面改築で新館が開館したとき、仏教の専門図書館としての性格を強め、名前も「成田図書館」から「成田山仏教図書館」に改めた。ただ、設立の趣旨はもともと「内外の図書」を広く集めることだった。そのため棚には、意外な本が並んでいる。
- 国の重要文化財『住吉物語』と『伊能忠敬日本実測輿地図』
- 夏目漱石や島崎藤村の初版本
- 石川照勤が支援した児童文学者・鈴木三重吉の、謝辞入りの著書
- 1889年創刊の美術雑誌『國華』を、創刊号からほぼ欠けることなく
- 国立国会図書館にも所蔵されていない、明治・大正期の雑誌の数々
蔵書は図書334,689冊、雑誌3,831種、新聞211種(2021年3月末)。2005年には73万件を超える蔵書データベースをインターネットで公開している。遠くの研究者や、海外からの問い合わせもあるという。
お寺の図書館が、なぜ漱石や美術雑誌まで集めたのか。答えは開申書の一文にある。公衆のための図書館を作ると決めた以上、仏教の本だけでは足りなかったのだ。
閉架式、そして予約の図書館
訪ねる前に、知っておくべきことがある。
成田山仏教図書館は閉架式だ。書庫には入れない。目録で本を探し、「図書請求用紙」に書いてカウンターに出すと、職員が書庫から出してきてくれる。入館も閲覧も無料。
そして現在、開館の形が変わっている。公式サイトでは「当面の間」として、
- 火曜日・土曜日:通常開館日
- 水・木・金・日曜日:予約閲覧日(電話・メール・FAXで事前に連絡し、予約したうえで閲覧)
- 月曜日・国民の祝日:休館
という運用を案内している。開館時間は9:00〜17:00。
ふらっと寄れるのは、実質的に火曜と土曜だけだ。それ以外の日に行くなら、必ず事前に連絡を。初詣や週末の参拝ついでに、と思っていると、扉が閉まっていることもある。
閲覧席は一般用24席と座席指定46席。どの席を使うかは、受付で利用目的に応じて決まる。自習室はなく、持ち込みの参考書を広げて勉強するための場所ではない。
館外への貸出ができるのも、成田市に住んでいる人だけだ(身分証明書で登録、1人5冊・2週間)。貴重書や和装本、雑誌・新聞、1965年以前に発行された図書などは貸出できない。旅行者にとっては、来て、請求して、その場で読む図書館ということになる。
このハードルの高さも含めて、ここは「見る」ための図書館ではなく、「調べる」ための図書館なのだと思う。運営しているのは公益財団法人成田山文化財団。書道美術館や霊光館と並ぶ、成田山の文化事業のひとつである。
設備とアクセス
JR成田駅・京成成田駅から徒歩約15分。京成成田駅から千葉交通バスで「成田山門前」下車、徒歩5分でも行ける。場所は大本堂の左手、聖徳太子堂の下だ。
建物は鉄筋コンクリート造の地下1階・地上2階(一部3階)。延べ床面積2,028.72㎡のうち、閲覧室が368.5㎡、書庫が832.0㎡。書庫の大きさが、この館の性格を物語っている。
図書館専用の駐車場はないので、車なら成田山周辺の有料駐車場を使うことになる。館内に利用者向けのWi-Fiやコンセントはない。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 千葉県成田市田町312(成田山新勝寺 大本堂左手、聖徳太子堂下) |
| アクセス | JR・京成「成田駅」から徒歩約15分/千葉交通バス「成田山門前」下車徒歩5分 |
| 開館時間 | 9:00〜17:00 |
| 開館日 | 通常開館は火・土曜日。水・木・金・日曜日は予約閲覧日(要事前連絡) |
| 休館日 | 毎週月曜日・国民の祝日 |
| 入館料 | 無料 |
| 蔵書 | 図書334,689冊・雑誌3,831種・新聞211種(2021年3月末) |
| 方式 | 閉架式(書庫には入れず、請求用紙で出納) |
| 閲覧席 | 一般24席・座席指定46席(受付で利用目的に応じて決定) |
| 貸出 | 成田市在住者のみ(5冊・2週間) |
| Wi-Fi・電源 | なし |
| 学習室 | なし |
| 運営 | 公益財団法人成田山文化財団 |
| 創立 | 1901年設置届出、1902年2月開館(創立記念日は6月9日) |
| 駐車場 | 専用駐車場なし(成田山周辺の有料駐車場を利用) |
| 公式サイト | 成田山仏教図書館 |
こんな人におすすめ
- 成田山の参拝ついでに、境内の「知られざる一角」を訪ねたい人
- 明治のお寺が「公衆のため」に開いた図書館の歴史に触れたい人
- 重要文化財の古典籍や、国会図書館にもない明治・大正の雑誌を調べたい人
- 閉架式の図書館で、職員が書庫から本を出してくれる体験をしてみたい人
- 成田空港の前泊・後泊で、空いた半日を有意義に使いたい人
周辺スポット
成田山新勝寺・成田山公園
平安時代の940年に開かれたと伝わる真言宗智山派の大本山。初詣の参拝者数は全国でも指折りだ。境内には国の重要文化財の三重塔や仁王門が並び、奥には約16.5ヘクタールの成田山公園が広がる。秋の紅葉、春の梅と、季節ごとの散策も楽しい。図書館は、この広い境内の一角にひっそりとある。
Google Mapsで見る ›成田山表参道
駅から新勝寺まで続く、約800mの坂の参道。名物はうなぎで、印旛沼や利根川で川魚がとれた土地柄、老舗のうなぎ屋が軒を連ねる。店先でうなぎをさばく様子が見られる店もある。羊羹、鉄砲漬けといった門前の名物も多い。図書館へは、この参道を歩いて向かいたい。
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