「図書館」と名乗らなかった県立図書館——奈良県立図書情報館
奈良県の県立図書館は「図書館」と名乗らない。正式名称は奈良県立図書情報館。条例には公共図書館・情報センター・専門図書館という3つの機能が書かれている。電源とWi-Fiのある席を予約して勉強でき、年中9時から20時まで開き、明治以来の県行政文書まで抱え込んだ館だ。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 4 #26は奈良県立図書情報館。奈良市大安寺西、JR奈良駅からバスで20分ほど。
名前を見てほしい。「図書館」ではない。図書情報館である。 略称も「県立図書館」ではなく「情報館」。2005年(平成17年)11月3日の開館時点で、この館は名前から言い切っていた。
条例に書かれた、3つの機能
奈良県立図書情報館の設置条例には、この館が持つ機能が3つ明記されている。
- 県の中核的な公共図書館
- さまざまな情報の創造・提供・仲介を行う情報センター
- 奈良県の歴史・文化に関する専門図書館
2番目が名前の由来だ。本を貸す場所であると同時に、情報そのものを扱う施設として設計されている。
数字にも表れている。閲覧席410席のうち、約半数でインターネットに接続できる。 パソコン設置席が82席、ノートパソコン用の電源は108口。2005年という時期を考えると、かなり思い切った構成だ。当時はまだスマートフォンもなく、公共図書館でネットに触れられること自体が珍しかった。
利用者が自分で情報を発信することまで視野に入っていた、と開館当時の資料には書かれている。図書館が情報を渡すだけでなく、使い手が何かを生み出す場にする。Library of the Year 2009 の優秀賞を受けているのも、この姿勢があってのことだろう。
公衆無線LANの導入は2022年。ネットに全振りして開館した館が、Wi-Fiは比較的最近というのが、時代の進み方を感じさせる。いまは館内全域で使える。
創作の場もある。館内にはデジタルスタジオやアトリエが併設されていて、映像やデジタルコンテンツを自分でつくることができる。「情報の創造」という条例の文言は、飾りではなかったということだ。
席を、予約して勉強できる
このシリーズでは、自習をめぐる各館の答えを追ってきた。三重・滋賀・京都は通年で不可。大阪はイベントのない日に多目的室を開放。兵庫は夏休みだけ。
奈良は、予約して堂々と勉強できる。
図書情報館には座席利用システムがあり、2通りの方法で席を確保できる。
- 館内端末で当日確保——利用者カードを読み込ませ、その場で空席を押さえる
- WEBで事前予約——利用者カードと「マイライブラリ」の登録があれば、毎日7:00〜23:00のあいだにスマホやパソコンから予約できる
利用は1回あたり最大180分。次の予約が入っていなければ、終了30分前から延長の手続きができる。席には属性のルールもあって、成人のみ利用可能な北側ブース(高校生は不可)や、土日祝だけ一般開放される閲覧席などがある。
持ち込み資料だけの学習も、これらの席で公式に認められている。禁止でも、例外的な開放でもなく、仕組みとして組み込まれている。 電源とWi-Fiが揃った席を、事前に押さえて行ける県立図書館というのは、なかなかない。
利用者カードは3階のカウンターで作れる。奈良県民に限らず、大阪・京都・兵庫・和歌山・滋賀・三重の近隣府県に住んでいる人も、本人確認書類があればその場で無料で作成できる。 京都府立図書館も隣接6府県の在住者にカードを出していた。近畿では府県境をまたぐ利用が、わりあい当たり前になっているらしい。
図書館が、公文書館でもある
もうひとつ、この館には珍しい機能がある。公文書館機能を併せ持っているのだ。
明治以来の奈良県の行政文書を一体的に管理し、保存して利用に供する。さらに古文書も収蔵していて、整理済みのものだけで57文書群、およそ28,000点。葛下郡上牧村の牧浦家文書といった村方文書を中心に、奈良奉行所の与力だった玉井家の文書なども含まれる。
このシリーズでは、新潟県立図書館が県立文書館と同じ建物に入り、福井県立図書館が文書館とふるさと文学館を抱えているのを見てきた。だがどちらも、別々の施設が同居している形だった。
奈良は違う。ひとつの館が、図書館と公文書館の両方の機能を持っている。従来の図書資料と文書資料という枠組みを、情報センター機能で統合する試みだった、と開館時の資料は説明している。名前に「情報」が入っている理由が、ここでも効いてくる。
全国的にも、公文書館機能をあわせもつ図書館は数少ない。
戦争体験文庫の、5万冊
3階には戦争体験文庫がある。
全国から寄贈された、戦争に関わる記録のコレクションだ。その規模は約5万冊。手記、体験記、部隊史、そして『東郷』『水交』といった旧軍関係の雑誌まで。靖国神社の偕行文庫と双璧をなすと評されるほどの厚みがある。
前回の兵庫県立図書館には、阪神・淡路大震災の記録を集めた「フェニックス・ライブラリー」があった。奈良には戦争体験文庫がある。
県立図書館というのは、県民に本を貸すだけの施設ではない。誰かが残そうとしなければ消えてしまう記録を、引き受ける場所でもある。個人の手記は市場に乗らない。放っておけば、その人が亡くなった時点で失われる。それを県が受け取って並べておく。地味だが、これ以上に図書館らしい仕事もないと思う。
ほかに、奈良県関係資料を集めたふるさとコーナーや国際交流コレクションもある。
2つの館が、1つになった
現在の館ができるまでには時間がかかっている。
新図書館のあり方の検討が始まったのが1992年(平成4年)6月。1995年に「奈良県立図書館整備基本構想」を策定し、1997年に建設候補地を内定、2002年に用地を取得、2003年着工。2005年3月に完成した。構想から10年である。
そしてこの館は、2つの図書館を1つにまとめたものでもある。前身は奈良県立奈良図書館と奈良県立橿原図書館。両館とも2005年3月31日に閉館し、同年11月3日に図書情報館が開館した。
このうち奈良図書館の来歴が興味深い。1908年(明治41年)、奈良公園内に奈良県立戦捷紀念図書館として竣工し、翌1909年に開館している。戦捷、つまり日露戦争の勝利を記念して建てられた図書館だ。
——前々回の京都府立図書館を思い出してほしい。あちらも1905年、日露戦争の殉難者を弔う戦勝記念館として府会に提案され、可決されて建てられた館だった。日露戦争のあと、京都と奈良に相次いで記念の図書館が建ったことになる。あの時代、戦争を記念する方法として図書館を建てるという選択が、たしかに存在していた。
奈良図書館は1923年に改称し、1968年に奈良県文化会館へ併設して新館が開館。旧館の建物は郡山城内に移築され、1997年に奈良県指定文化財となった。いまも郡山城跡に建っている。
ちなみに奈良は、日本最古の公開図書館といわれる芸亭が置かれた地でもある。奈良時代、石上宅嗣が自邸の一角を開いて人々に書物を読ませたという。京都府立図書館の源流が1873年の集書院——日本最初の公立図書館だったのに対し、奈良はさらに千年遡る。
設備とアクセス
開館時間は9:00から20:00。全曜日共通で、日曜も祝日も20時まで開いている。 このシリーズを通して、これはかなり長いほうだ。土日が17時で閉まる館が多いなか、奈良は曜日で変えない。
休館日は毎週月曜(祝日・振替休日に当たるときは次の平日)、毎月末日(土日月に当たるときはその前の平日)、年末年始。月末が休みという設定は静岡と同じだ。
蔵書は約77万冊。開架に25万冊が出ていて、閉架書庫は最大100万冊まで収容できる。まだ余力がある。
閲覧席410席は余裕がある。日曜の朝は自習の高校生が9時前から並ぶという話もあるが、席数が多いので座れないということは少ない。前述のとおり、席は予約して確保できる。
座席での食事は禁止だが、館内には2階のカフェ・レストランル・ボワがあり、テラス席や1階の自動販売機コーナー(リフレッシュスペース)では持ち込んだ軽食を食べられる。一日いても困らない。コインロッカーもある。
駐車場が大きい。普通車311台、障害者用6台、バス5台。利用時間は8:45から20:15まで。1時間までは無料で、以降は1時間ごとに100円。図書館の閉館15分後まで停められるので、閉館ぎりぎりまでいても慌てなくていい。
公共交通なら、JR奈良駅東口6番のりばから奈良交通バスで15分、近鉄奈良駅からなら20分、いずれも「県立図書情報館」下車。近鉄新大宮駅からは徒歩15分ほど。バスは1時間に1本程度なので、帰りの時刻は先に調べておきたい。
貸出は利用者カードを作れば1回10冊まで30日間。カードの有効期間は無期限だが、3年間使わないと無効になる。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 奈良県奈良市大安寺西1丁目1000番地 |
| アクセス | JR奈良駅東口から奈良交通バス約15分/近鉄奈良駅から約20分、「県立図書情報館」下車/近鉄新大宮駅から徒歩約15分 |
| 開館時間 | 9:00〜20:00(全曜日) |
| 休館日 | 毎週月曜日(祝日・振替休日は次の平日)・毎月末日(土日月はその前の平日)・年末年始(12/28〜1/4) |
| 開館 | 2005年11月3日(前身は奈良県立奈良図書館・奈良県立橿原図書館) |
| 設計 | 日本設計・桝谷設計(SRC造 地上3階地下1階/延床12,123㎡・敷地31,638㎡) |
| 蔵書数 | 約77万冊(開架25万冊/閉架書庫は最大100万冊収容) |
| 特色 | 公文書館機能を併設(県行政文書・古文書57文書群 約28,000点)/戦争体験文庫 約5万冊/ふるさとコーナー/デジタルスタジオ・アトリエ |
| 閲覧席 | 410席(うち約半数がネット接続可/PC設置席82席) |
| 自習 | 可(座席利用システムで確保。館内端末の当日確保、またはWEB事前予約 7:00〜23:00。1回最大180分・延長可) |
| Wi-Fi | あり(館内全域・2022年導入) |
| 電源 | あり(ノートPC用108口) |
| 駐車場 | あり(普通車311台・障害者用6台・バス5台/1時間まで無料、以降1時間100円/8:45〜20:15) |
| 飲食 | 座席での食事は不可/2階カフェ・レストラン「ル・ボワ」、テラス席・1階リフレッシュスペースで持ち込み可 |
| 貸出 | 10冊まで30日間(利用者カードは近隣府県〈大阪・京都・兵庫・和歌山・滋賀・三重〉在住者も作成可) |
| 公式サイト | 奈良県立図書情報館 |
こんな人におすすめ
- 電源とWi-Fiのある席を予約して、腰を据えて勉強・作業したい人
- 近畿の他府県に住んでいて、奈良の資料を借りたい人
- 戦争の個人記録・部隊史を、一次資料から追いたい人
- 奈良県の行政文書や古文書を調べたい人(公文書館機能あり)
- 夜20時まで、曜日を問わず開いている館で作業したい人
- 平城宮跡や大安寺とあわせて、奈良の一日を組み立てたい人
周辺スポット
大安寺
南都七大寺のひとつで、奈良時代には東大寺と並ぶ大寺だった。いまは往時の規模を失っているが、天平時代の木造仏9体が重要文化財として残る。がん封じの寺としても知られ、1月と6月の笹酒祭りには行列ができる。図書情報館の住所にある「大安寺西」は、この寺の名を負っている。
Google Mapsで見る ›平城宮跡歴史公園
奈良時代の都の中枢だった平城宮の跡地が、そのまま広大な公園になっている。復元された大極殿と朱雀門のあいだを近鉄電車が横切っていく光景は、ここでしか見られない。世界遺産であり特別史跡。図書情報館で奈良の古代史を調べてから歩くと、原っぱの見え方が変わる。
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図書情報館はJR奈良駅からバスで20分、近鉄新大宮駅からは徒歩15分ほど。奈良公園や東大寺、平城宮跡へも動きやすい立地です。奈良は宿泊者が少なく夕方以降が静かなので、泊まるとまた違う顔が見られます。
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