本屋の中に、県立図書館があった——熊本県立図書館
1945年の熊本大空襲で、熊本県立図書館は蔵書8万3000冊と館舎のすべてを失った。再開の第一歩は、熊本の老舗書店・長崎次郎書店の中に置かれた分室だった。物産館の付属図書館として1896年に始まり、水前寺江津湖公園のほとりで「温知館」と呼ばれるまでの130年を訪ねる。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 4 #41は熊本県立図書館。熊本市中央区出水、水前寺江津湖公園のなかにある。愛称は温知館。建物内にくまもと文学・歴史館を併設している。
はじめに、現在の状況から。
地震から、戻ってきたところ
2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1(暫定値)の地震が発生した。令和8年熊本地震である。
熊本県立図書館とくまもと文学・歴史館は、同日から臨時休館に入った。利用者の安全確保のため休館は延長され、館内のイベントもすべて中止された。
そして8月13日、1階の子ども図書室とくまもと文学・歴史館、2階と3階の学習スペースが再開。翌8月14日に全フロアが開館した。貸出中の資料については返却期限の延長措置がとられている。
本記事は再開後の情報にもとづいているが、訪ねる前には公式サイトのお知らせを確認してほしい。状況は変わりうる。
このシリーズでは、耐震改修で1年10か月休んだ愛媛県立図書館や、今冬から2か月半休館する福岡県立図書館を書いてきた。熊本は災害で止まり、2週間あまりで戻ってきた。
物産館の、付属図書館から
この館の始まりは、ちょっと変わっている。
1896年(明治29年)9月、熊本市南千反畑町に熊本県観聚館——物産館である——が開かれ、その付属図書館として一般公開されたのが最初だった。本のための施設としてではなく、物産を見せる施設の一部として始まっている。
1911年(明治44年)5月に観聚館の隣接地へ独立館舎が完成し、翌1912年(明治45年)4月、観聚館から独立して熊本県立図書館となった。
独立してからの動きが速い。
- 1912年7月——夜間貸出を開始
- 1913年5月——館外貸出を開始
- 1914年8月——県内の公共図書館・県立学校への図書貸出(巡回文庫)を開始
独立から2年で、夜も開け、本を持ち帰らせ、県内へ送り出すところまで行っている。
面白いのは1923年(大正12年)だ。郡制の廃止にともなって、玉名・宇土・下益城・球磨・芦北・天草の郡立図書館6館が県に移管され、県立図書館の分館になった。ところが1929年(昭和4年)3月、これら6分館は各郡の教育支会へ移管される。6年で手放している。
このシリーズでは県立と市町村立の関係を追ってきたが、郡立を引き取って、また返すという動きは熊本だけで見た。
焼けたあと、本屋の中にいた
1945年(昭和20年)7月、熊本大空襲。
熊本県立図書館は、全蔵書8万3000冊と361坪の館舎を焼失した。何も残らなかった。
そこからの再開が、この館でいちばん印象的な記録だと思う。
1946年(昭和21年)1月、熊本市上通町四丁目の長崎次郎書店内に、熊本図書館分室が開設された。
長崎次郎書店は1874年創業の、熊本では知らない人のいない老舗書店である。その店内に、県立図書館の分室が置かれた。本屋の中に、県立図書館があった。
同年3月には、熊本城内の旧第6師団法務部庁舎で開館する。蔵書は旧陸軍幼年学校の蔵書などを集めた9,245冊。焼ける前の8万3000冊の、9分の1である。
このシリーズでは、戦災で蔵書を失った図書館をいくつも見てきた。富山、岐阜、福岡、長崎。どこも再出発に苦労している。だが町の書店が場所を貸したという記録は、熊本だけだった。
1951年10月に熊本県立図書館設置条例が公布され、1985年(昭和60年)10月、出水二丁目の江津花壇跡地に現在の新館と近代文学館が開館した。2016年1月、熊本近代文学館は改修を経てくまもと文学・歴史館として新装開館している。
蔵書は現在1,157,176冊(2020年時点)。焼け跡の9,245冊から、125倍になった。
休みが火曜日、自習は大学生から
利用のルールに、この館ならではの特徴が2つある。
ひとつめ。休館日が火曜日である。
この連載で回ってきた県立図書館は、ほぼ例外なく月曜休館だった。熊本は火曜休館。祝日にあたるときは開館して翌日が休みになる。ほかに毎月最終金曜日、年末年始、年間14日以内の特別整理期間。
ふたつめ。閲覧室での自習が、大学生以上に限定されている。
高校生や予備校生の自習については、別のスペースが用意されているという。年齢によって場所を分けるという運用は、この連載では初めて見た。
三重や京都のように自習を一律で断る館、大阪や兵庫のように日程や季節で部屋を開ける館、愛媛や高知のように専用の学習室を持つ館——いろいろな答えを見てきたが、利用者の属性で分けるというのは熊本だけだ。混雑への対応として編み出されたものだろう。
地震からの再開でも、8月13日の時点で2階と3階の学習スペースが真っ先に開いている。学習の場としての需要が高い館であることが、この順番からも伝わってくる。
設備とアクセス
開館時間は部屋ごとに分かれている。平日の第1・第2閲覧室が9:30〜19:00、子ども図書室・視聴覚室・くまもと文学・歴史館は9:30〜17:15。土日祝は全館17:15まで。
Wi-Fiは「くまもとFree Wi-Fi」が使える。電源は2階閲覧室に3か所、3階閲覧室に2か所と限られているので、長時間パソコンを使うなら充電を済ませていきたい。閲覧室にはインターネット閲覧用のパソコンもあり、カウンターで申し込む(1回30分)。
ビジネス情報コーナーがあり、起業や経営に関する書籍を2000冊以上そろえている。くまもと文学・歴史館では、熊本ゆかりの作家の自筆原稿や万年筆、文机といった愛用品が見られる。夏目漱石は熊本で4年3か月を過ごしている。
閲覧席は168席ほど。コインロッカーもあり、パンの自動販売機が置かれている。
貸出は10冊まで15日間。
駐車場は図書館専用のものがない。 一般利用者は隣接する熊本市総合体育館・青年会館の駐車場を使う。熊本県のハートフルパスを持っている人は、図書館北側の専用駐車場が利用できる。駐輪場は図書館北側。
公共交通なら、熊本市電「市立体育館前」電停から徒歩5分、バス「水前寺公園前・県立図書館入口」から徒歩6分、JR豊肥本線「新水前寺駅」から徒歩16〜20分。阿蘇くまもと空港からはリムジンバスで30〜40分。
江津湖のほとりという立地なので、窓からの眺めがいいという声が多い。読書に疲れたら外を眺める、あるいは外に出て歩く。都市部の県立図書館では得がたい環境だと思う。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 愛称 | 温知館 |
| 住所 | 熊本県熊本市中央区出水2丁目5番1号(水前寺江津湖公園内) |
| アクセス | 熊本市電「市立体育館前」から徒歩5分/JR新水前寺駅から徒歩約20分/阿蘇くまもと空港からリムジンバス30〜40分 |
| 開館時間 | 【平日】第1・第2閲覧室 9:30〜19:00/子ども図書室・視聴覚室・文学歴史館 9:30〜17:15 【土日祝】全館 9:30〜17:15 |
| 休館日 | 毎週火曜日(祝日のときは開館し翌日休館)・毎月最終金曜日・年末年始(12/28〜1/3)・特別整理期間(年間14日以内) |
| 開館 | 1985年10月(江津花壇跡地)。1896年9月に熊本県観聚館付属図書館として一般公開、1912年4月に県立図書館として独立 |
| 蔵書数 | 1,157,176冊(2020年時点) |
| 閲覧席 | 約168席 |
| 自習 | 閲覧室での自習は大学生以上に限定。高校生・予備校生には別のスペースを用意 |
| Wi-Fi | あり(くまもとFree Wi-Fi) |
| 電源 | あり(2階閲覧室3か所・3階閲覧室2か所) |
| 駐車場 | 専用駐車場なし(熊本市総合体育館・青年会館駐車場を利用/ハートフルパス保持者は北側の専用駐車場) |
| 併設 | くまもと文学・歴史館(2016年1月新装開館) |
| 特色 | ビジネス情報コーナー(起業・経営の書籍2000冊以上)/熊本ゆかりの文学資料 |
| 貸出 | 10冊15日間 |
| 公式サイト | 熊本県立図書館 |
こんな人におすすめ
- 熊本の郷土資料や、熊本ゆかりの作家の資料を調べたい人
- 起業や経営の調べものをしたい人(ビジネス情報コーナーへ)
- 江津湖の緑を窓の外に置いて、静かに読書したい人
- 水前寺成趣園や江津湖の散策とあわせて訪ねたい人
- 大学生以上で、落ち着いて自習できる場所を探している人
- 訪問前に開館状況の確認を——2026年7月の地震後、8月に全フロアが再開しています
周辺スポット
水前寺成趣園
細川家が造営した桃山式の回遊式庭園で、国の名勝・史跡。阿蘇の伏流水が湧く池を中心に、東海道五十三次を模したとされる築山と芝が広がる。富士山に見立てた築山が特に知られている。図書館から歩ける距離にあり、県立図書館が「水前寺」というエリアの一角にあることが実感できる。
Google Mapsで見る ›江津湖
一日に40万トンもの地下水が湧き出す、熊本市街の東にある湖。上江津湖と下江津湖からなり、周囲は水前寺江津湖公園として整備されている。図書館の窓からはこの湖畔の緑が見え、読書に疲れたら外に出て歩ける。夏目漱石も泳いだと伝わる水辺で、ハヤブサやカワセミも見られる。
Google Mapsで見る ›🏨 図書館巡りの宿を探す
熊本市内の宿を探す
図書館は熊本市電「市立体育館前」から徒歩5分、JR新水前寺駅から徒歩20分ほど。水前寺成趣園や熊本城、阿蘇方面への起点にもなります。市街地に宿を取れば、江津湖の散策とあわせて回れます。
楽天トラベルで宿を探す