旧庁舎に泊まり、旧議場で読む——伊賀市中央図書館
建築家・坂倉準三が1964年に設計した旧上野市庁舎が、図書館とホテルの複合施設「SAKAKURA BASE」に生まれ変わった。2026年4月1日に開館した伊賀市中央図書館は、同じ建物にホテルが入る「日本初の泊まれる公共図書館」。旧議場は60席の学習室になった。名建築の保存にこだわった図書館。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 5 #15は三重県の伊賀市中央図書館。
このブログのPhase 1は、三重県の図書館めぐりだった。そのとき、伊賀の図書館だけは「新しい図書館ができてから、泊まりがけで訪ねたい」と保留にしていた。2026年4月、その図書館がついに開館した。
こだわっているのは、古い建物を残すことだ。そしてその結果、日本で初めての「泊まれる公共図書館」が生まれた。
坂倉準三の庁舎
舞台は、伊賀市の旧上野市庁舎。1964年に完成した建物で、設計は建築家の坂倉準三(1901〜1969)だ。
坂倉は、近代建築の巨匠ル・コルビュジエのもとで学び、日本のモダニズム建築を切り開いた建築家のひとりである。旧上野市庁舎は、その坂倉が手がけた庁舎建築として、いまでは貴重な存在になっている。設計にかかわった事務所のスタッフは、丘の上に建つ古代ギリシャのパルテノン神殿を意識したと証言していて、雑誌では「坂倉のパルテノン」とも呼ばれた。
市町村合併で伊賀市が生まれ、やがて新しい市庁舎ができると、この建物は庁舎としての役目を終えた。役目を終えた古い庁舎は、取り壊されることも多い。だが伊賀市は、この建物を市の文化財に指定して残す道を選んだ。
庁舎を、図書館とホテルに
残すだけでは建物は生きない。そこで市は、民間の力を借りて(PFI)、旧庁舎を新しい複合施設に生まれ変わらせた。それが「旧上野市庁舎 SAKAKURA BASE」だ。改修の設計はマル・アーキテクチャが担当した。
2025年7月、まず観光案内所、物販店「伊賀百貨」、カフェ、そしてホテル「泊船(はくせん)」が開業した。ホテルの客室は19室。旧庁舎の部屋の木枠をそのまま残し、窓の内側に障子を加え、家具は坂倉準三建築研究所のデザインをもとに天童木工が製作している。
そして2026年4月1日、建物の延べ床面積の大半を占める伊賀市中央図書館が開館した。旧上野図書館が移転してきたもので、同じ建物にホテルがあることから「日本初の泊まれる公共図書館」と呼ばれている。
夜9時まで図書館で本を読み、そのまま同じ建物の部屋に帰って眠る。そんな過ごし方ができる公共図書館は、これまで日本になかった。
旧議場が、学習室になった
図書館の中に入ると、坂倉の建物の骨格がそのまま生きている。
- 地下1階:絵本などの児童書架と、小さな子ども向けの「おはなしスペース」。テラスには地元の伊賀白鳳高校の生徒がつくった木のベンチが置かれている
- 1階・中2階:天井の高い開放的な空間に、一般書架と閲覧スペース。1階の書架は、水面に広がる波紋のような形に並べられている
- 2階:かつての市議会の議場が、60席の学習・集会室に生まれ変わった。8席のラウンジもある
議員が議論を交わした議場で、いまは高校生や受験生が勉強している。両側のトップライトから光が入り、坂倉建築研究所がデザインした当時の椅子と、新しい机や椅子が並んでいる。
学習席は図書利用カードがあればWebで予約でき(当日から数日先まで)、館内の予約端末から当日受付もできる。持ち込みの参考書で勉強するのも公式にOKで、学習・集会室だけでなく館内の閲覧席でも自習できる。Phase 5の専門図書館は自習お断りの館が多かったが、ここは市立図書館らしく、学ぶ人にも開かれている。
改修では、坂倉の設計を尊重することが徹底された。文化財なので、スチールのサッシや一枚ガラスは取り替えずに残した。入口に使われていた六角形のタイルと同じ色のタイルを新たに焼いて、床全体に敷き詰めた。ふさがれていた天窓も復活させた。書棚やソファ、テーブルは家具デザイナーの藤江和子が、照明は岡安泉が担当している。
蔵書は約23万冊。自動貸出機や返却機も備えた、新しい図書館の機能を持っている。
Phase 5のなかの伊賀
Phase 5は「何か一つに異常にこだわった図書館」を訪ねるシリーズだ。伊賀市中央図書館のこだわりは、本の種類ではなく建物にある。
壊されてもおかしくなかった60年前の庁舎を、文化財として残し、図書館とホテルとして使い続ける。その結果として「泊まれる図書館」という、ほかにない体験が生まれた。#2の紫波町図書館や#14のえんぱーくが新しい建物でまちをつくったのに対して、伊賀は古い建物でまちをつくろうとしている。
設備とアクセス
場所は伊賀市上野丸之内、伊賀上野城のある上野公園のすぐ近く。城下町の中心だ。
開館時間は9:00〜21:00と長い。休館日は毎月末日(土日祝の場合は次の平日)の図書整理日と、12月30日、年末年始(12月31日・1月1日)。毎週の定休日がないのもうれしい。
館内では無料Wi-Fiが使え、コンセントのある席ではスマートフォンやパソコンの充電もできる(充電器の貸出はなし)。
駐車場は有料だが、入庫後30分は無料。図書利用カードで図書館を利用すれば、最大2時間まで無料になる。それを超えると、8:00〜19:00は1時間200円(最大800円)、19:00〜翌8:00は1時間100円(最大500円)。
ホテル宿泊者向けの図書館サービスがあるかどうかは、現在確認中。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 三重県伊賀市上野丸之内116(旧上野市庁舎 SAKAKURA BASE内) |
| 開館時間 | 9:00〜21:00 |
| 休館日 | 毎月末日(土日祝の場合は次の平日)・12月30日・年末年始(12/31・1/1) |
| 蔵書 | 約23万冊 |
| 開館 | 2026年4月1日(旧上野図書館を移転) |
| 建物 | 旧上野市庁舎(1964年、坂倉準三設計、市指定文化財)/改修設計:マル・アーキテクチャ |
| 学習室 | 2階 学習・集会室60席(旧議場、Web予約・館内端末で当日受付)、閲覧席での自習も可 |
| Wi-Fi | あり(無料) |
| 電源 | あり(コンセントのある席で充電可) |
| 駐車場 | あり(30分無料、図書館利用で最大2時間無料。超過は1時間200円〜) |
| 併設 | ホテル「泊船」(19室)、観光案内所、物販「伊賀百貨」、カフェ |
| 公式サイト | 伊賀市立図書館 |
こんな人におすすめ
- 図書館と同じ建物のホテルに泊まって、夜まで本を読んでみたい人
- 坂倉準三のモダニズム建築や、名建築の再生に興味がある人
- 旧議場を使った学習室で勉強してみたい人
- 伊賀上野城や忍者博物館、芭蕉の生家とあわせて城下町を歩きたい人
- このブログのPhase 1で訪ねた三重の図書館めぐりの、続きを見たい人
周辺スポット
上野公園(伊賀上野城・伊賀流忍者博物館)
藤堂高虎が築いた高さ約30mの高石垣で知られる伊賀上野城と、伊賀流忍者博物館が同じ公園内にある。忍者屋敷ではからくりや隠し扉を案内してもらえ、忍術ショーも見られる。図書館の住所「丸之内」は、このお城の内側という意味。図書館を出て、坂を上ればすぐに城と忍者の世界だ。
Google Mapsで見る ›芭蕉翁生家
俳聖・松尾芭蕉が生まれ、29歳で江戸に出るまで過ごした家。奥には、処女句集『貝おほひ』を書いたとされる釣月軒が残る。伊賀上野は芭蕉のふるさとで、市内には句碑や記念館も多い。図書館で芭蕉の句集を借りて、ゆかりの地を歩くのもいい。
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せっかくなら、図書館と同じ建物のホテル「泊船」に泊まって「泊まれる図書館」を体験したいところ。ほかにも伊賀上野の城下町周辺に宿があります。名阪国道でのアクセスもよく、奈良や伊勢と組み合わせた旅もできます。
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