小学校の廊下で、5万冊のマンガを読む——京都国際マンガミュージアム
明治2年に町の人たちがお金を出し合って開いた龍池小学校。その昭和初期の校舎が、いまはマンガのミュージアムになっている。資料は約30万点、そのうち約5万冊が「マンガの壁」に並び、廊下でも階段でも芝生の校庭でも自由に読める。京都市と京都精華大学が2006年に開いた、マンガを「文化」として集める場所。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 5 #16は京都市の京都国際マンガミュージアム。
#8では、東京・早稲田の米沢嘉博記念図書館を訪ねた。コミケの創設にかかわった評論家が集めたマンガと同人誌を、静かな閲覧室で読む図書館だった。今回はもう一つの、そしてずっと大きなマンガの館だ。こだわっているのは、マンガを文化として残すことである。
町の人が建てた小学校
京都国際マンガミュージアムの建物は、もとは龍池(たついけ)小学校という小学校だった。
この学校の始まりは1869年(明治2年)。国が学校の制度(学制)を定めるのは1872年なので、それより3年も早い。京都の町の人たちは、明治のはじめに自分たちでお金を出し合い、町ごとに小学校をつくった。「番組小学校」と呼ばれる、日本で最初の学区制の小学校だ。龍池小学校は、そのひとつ「上京第二十八番組小学校」として生まれた。
いまの校舎は昭和初期に建てられたもの。都心の人口が減って、学校は1995年に閉校する。126年の歴史だった。
その校舎を、京都市と京都精華大学が一緒に改修し、2006年11月25日にマンガミュージアムとして開いた。京都精華大学は、日本で初めてマンガ学部をつくった大学だ。土地と建物は京都市が大学に無償で貸し、地元の龍池学区の自治連合会も加わった三者で運営に協力している。
校舎がそのまま残っている
館内に入ると、ここが小学校だったことがすぐにわかる。
タイル張りの階段、きしむ木の廊下、教室の扉。本館と北館、講堂を渡り廊下でつないでいて、建物の造りは学校のままだ。2階には「龍池歴史記念室」があり、小学校だった頃の写真や資料が残されている。かつての校長室は、いまも地元の人たちの会議に使われているという。
面白いのは、いまも年に一度、ここで地域の運動会が開かれていることだ。その日だけは芝生の校庭で本を読めないが、卒業生や町の人たちが集まる。学校がなくなっても、学校のある町の暮らしは続いている。
#15の伊賀市中央図書館は、古い市庁舎を残して図書館にした。ここは古い小学校を残して、マンガの館にした。
マンガの壁
この館のいちばんの見どころが「マンガの壁」だ。
館内の廊下や壁に沿って、ずらりと本棚が続く。並んでいるのは約5万冊のマンガで、すべて自由に手に取って読める。
- 1階は少年マンガ
- 2階は少女マンガ
- 3階は青年マンガ
と、階ごとにジャンルが分かれていて、それぞれ作家名の五十音順に並んでいる。昔読んだ作品を、まとめて読み返せる。読み終えたら元の棚に戻すのがルールだ。
読む場所も自由だ。廊下のベンチでも、階段に腰かけても、晴れた日なら芝生の校庭に寝転んでもいい。館内は飲食禁止だが、校庭の芝生では飲み物や軽食をとってもいい(ふたの閉まらない容器の飲み物は持ち込めない)。小学校の廊下で、子どもの頃に読んだマンガを読み返す。そんな時間の過ごし方ができるのは、ここだけだと思う。
30万点の、マンガの資料館
マンガの壁の5万冊は、全体のほんの一部にすぎない。
ミュージアムが持っている資料は約30万点。開館時の約20万点から、少しずつ増えてきた。マンガの単行本や雑誌のほかに、明治から戦後にかけての雑誌、海外のコミックスやフランスのバンド・デシネ、そして江戸時代の戯画なども含まれる。
京都は、平安時代末から鎌倉時代にかけて描かれた国宝「鳥獣戯画」を伝える町でもある。ウサギやカエルが人間のように遊ぶ絵巻は、日本のマンガのルーツのひとつとも言われる。その京都に、マンガを集めて研究する拠点をつくる。ミュージアムには、博物館と図書館の両方の役割がある。
マンガの壁にない約25万点は、研究者向けの「研究閲覧室」で閲覧できる。利用は研究・調査の目的に限られ、初回に研究閲覧登録をしたうえで、電話か問い合わせフォームから予約する完全予約制だ。閉架の雑誌は、開室日(金曜・日曜)に閲覧できる。
世界から人が来るマンガの館
入口近くの「マンガ万博」のコーナーには、英語、フランス語、ドイツ語、中国語などに翻訳された日本のマンガや、世界各国のコミックスが並ぶ。
来館者は年間で約28万人(2017〜2019年度)。そのうち3割近くが海外からの人で、2019年度には124の国と地域から訪れている。日本のマンガが世界中で読まれていることを、館内の人の顔ぶれで実感できる。
ほかにも、名物がいくつかある。
- 似顔絵コーナー:来館者の似顔絵を、マンガのタッチで描いてもらえる(有料)。とくに海外からの来館者に人気がある
- マンガ家の手:有名なマンガ家の手を石膏で型取りした展示
- 火の鳥のオブジェ:吹き抜けに飾られた、手塚治虫の「火の鳥」の大きな像
- こども図書館:1階に、絵本など約3,000冊をそろえた子ども向けの部屋がある
- 前田珈琲 マンガミュージアム店:京都の老舗喫茶のお店で、壁には来館したマンガ家たちの直筆イラストが描かれている
企画展も随時開かれている。2026年9月17日から2027年1月19日までは、ヨーロッパで日本のマンガがどう読まれてきたかをたどる「Mangaと育った子どもたち:ヨーロッパにおけるManga文化の40年」を開催中だ。
Phase 5のなかで
Phase 5ではここまで、#8の米沢嘉博記念図書館でマンガを扱ってきた。米沢がひとりの評論家の蔵書から始まった、研究のための静かな図書館だとすれば、京都国際マンガミュージアムは、町と大学が一緒につくった、誰でも遊びに来られるマンガの館だ。
そしてこのあと、Phase 5はもう一つのマンガの館、#22の北九州市漫画ミュージアムを訪ねる予定だ。東京、京都、北九州。三つのマンガの館を並べると、マンガを「残す」やり方がそれぞれ違うことが見えてくるはずだ。
設備とアクセス
京都市営地下鉄の烏丸線・東西線が交わる烏丸御池駅の2番出口から徒歩約2分。京都駅からは地下鉄烏丸線で約7分だ。
開館時間は10:00〜17:00(最終入館16:30)。休館日は水曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始、メンテナンス期間。ほかにも臨時休館の日があるので、出かける前に公式サイトのカレンダーを確認したい。
入館料は大人1,200円、中高生400円、小学生200円、小学生未満は無料。図書館というより博物館なので、入館料がかかる。マンガの壁の本は、入館すれば何冊でも自由に読める。ただし貸出はしない。
うれしいのは、当日なら何度でも再入館できることだ。受付で入館券を見せればいい。午前中にマンガを読み、お昼は烏丸御池の町家のお店で食べて、午後はまた戻って続きを読む。そんな一日の使い方ができる。京都に住んでいる人や何度も通う人には、年間パスポート(大人6,000円)もある。
駐車場はないので、公共交通機関で行くのが基本だ(車椅子の人向けの駐車スペースは3台分あり、事前の問い合わせが必要)。自転車なら、建物の北側に約80台分の駐輪場がある。
利用者向けのコンセントはないので、長くいるならモバイルバッテリーを持っていきたい。Wi-Fiは公式の案内では確認できなかった。勉強のための席や自習室もなく、席はあくまでマンガを読むためのものだ。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 京都府京都市中京区烏丸通御池上ル(元龍池小学校) |
| アクセス | 地下鉄烏丸線・東西線「烏丸御池駅」2番出口から徒歩約2分/京都駅から地下鉄で約7分 |
| 開館時間 | 10:00〜17:00(最終入館16:30) |
| 休館日 | 水曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始・メンテナンス期間(臨時休館あり) |
| 入館料 | 大人1,200円、中高生400円、小学生200円、小学生未満無料(当日は再入館可、年間パスポート大人6,000円) |
| 資料 | 約30万点(うち「マンガの壁」に約5万冊、自由に閲覧可) |
| 貸出 | なし(館内閲覧のみ) |
| 研究閲覧室 | 研究・調査目的に限り、登録のうえ完全予約制(閉架雑誌は金・日) |
| 開館 | 2006年11月25日 |
| 運営 | 京都市と京都精華大学の共同事業 |
| 建物 | 元龍池小学校(1869年開校・1995年閉校)の昭和初期の校舎 |
| 併設 | こども図書館(絵本約3,000冊)、前田珈琲 マンガミュージアム店、似顔絵コーナー、龍池歴史記念室 |
| Wi-Fi | 公式では確認できず |
| 電源 | なし |
| 学習室 | なし |
| 駐車場 | なし(車椅子用3台は要問い合わせ)。駐輪場約80台 |
| 公式サイト | 京都国際マンガミュージアム |
こんな人におすすめ
- 子どもの頃に読んだマンガを、もう一度まとめて読み返したい人
- 明治の番組小学校の校舎や、古い学校建築が好きな人
- 世界で日本のマンガがどう読まれているのかに興味がある人
- 似顔絵をマンガのタッチで描いてもらいたい人
- 二条城や錦市場とあわせて、京都の中心部を歩きたい人
- 米沢嘉博記念図書館、北九州市漫画ミュージアムとあわせて、マンガの館を見比べたい人
周辺スポット
二条城
徳川家康が築き、徳川慶喜が大政奉還を表明した場所。世界遺産「古都京都の文化財」のひとつで、国宝の二の丸御殿では、歩くと鳥の声のように鳴る「うぐいす張り」の廊下を歩ける。マンガミュージアムで歴史マンガを読んだあとに、その舞台へ。地下鉄で2駅と近い。
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「京の台所」と呼ばれる、東西約400mのアーケード商店街。京漬物、湯葉、だし巻き、川魚、生麩など、京都の食材の店が100軒以上並ぶ。食べ歩きできる店も多い。マンガミュージアムから南へ、烏丸通を下って歩いて行ける距離だ。
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烏丸御池は地下鉄の烏丸線と東西線が交わる、京都の中心部。京都駅からも地下鉄で約7分です。二条城、錦市場、京都御所へも歩いて行けるので、観光の拠点にちょうどいいエリアです。
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