本棚のある街へ
記事一覧へ
·愛媛県松山市堀之内·約17分

1年10か月ぶりに、お堀へ帰ってきた——愛媛県立図書館

愛媛県立図書館が再開館したのは、2026年8月22日。耐震改修のため1年10か月にわたって閉館し、その間は貿易センターの3階を仮設図書館にしていた。約6億8千万円をかけた工事で震度7に耐える建物になり、子ども読書室には県産材の木のブックツリーが立った。3階には104席の学習室。松山城のお堀の中にある、帰ってきたばかりの県立図書館である。

愛媛県立図書館のイメージ

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。

Phase 4 #35は愛媛県立図書館。松山市堀之内、松山城の城山公園のなかにある。伊予鉄の市内電車「南堀端」から徒歩2分。

この館が発行している広報誌の名前が「お堀の図書館」という。堀之内、つまり松山城の三之丸にあたる場所に建っているからだ。

そしてこの図書館は、2026年8月22日に再開館したばかりである。


1年10か月、いなかった

耐震改修と機能向上のための工事が決まったのは2023年2月。2024年度に着工し、2024年11月から堀之内の館は閉館した。

その間、県立図書館がなくなったわけではない。2025年2月、松山市大可賀のアイテムえひめ(愛媛国際貿易センター)3階のスカイホールに仮設図書館が開かれた。スペースは限られ、使える資料も少なくなったが、ほぼ通常どおりのサービスが提供されている。広報誌も「仮設図書館版」として出し続けていた。

そして2026年8月22日、約1年10か月ぶりに堀之内へ戻った。

工事の中身はかなり大がかりだ。総事業費は約6億8千万円。耐震壁を増設・補強し、内部に斜めの補強材を入れて、震度7の揺れにも耐えられる建物になった。あわせてトイレの洋式化、照明のLED化、床の張り替え。窓を広くとって館内が明るくなり、本棚も閲覧机も新しくなっている。

このシリーズでは、古い図書館建築がこれからどうなるのかを何度も書いてきた。静岡県立中央図書館は建て替えが決まったのに財源が足りず、老朽化した建物を使い続けている。島根県立図書館は2025年に初の大規模改修の方針を固めたところで、工期も休館対応もまだ決まっていない。京都府立図書館は外壁だけを残して建て替えた。

愛媛は、やり切って戻ってきた。 兵庫県立図書館も2016年から2018年にかけて耐震改修で休館し、仮本館を借りて乗り切っていた。地味だが、これができるかどうかは大きい。


木のブックツリー

今回のリニューアルで、いちばん力が入ったのは子ども読書室だった。

県産材などをふんだんに使って全面改装され、本棚やベンチにも木材が使われている。そして室の中央には、木のブックツリーが置かれた。

館長の松岡徹氏は、内覧会でこう語っている。

子育て世代のご家族に、ゆったりと、幸せなひとときを、本との出会いを通して味わっていただきたい

このシリーズでは、児童書をめぐる県立図書館の判断をいくつも見てきた。静岡は児童書を置かないと決め、滋賀は国内で刊行される児童書を全点購入し、大阪は菓子のおまけ絵本まで集め、広島はそもそも児童図書館として生まれた。

愛媛は、1年10か月と6億8千万円をかけた改修の主役に、子どもの部屋を選んだ。耐震という必須の工事に合わせて何を変えるか——そこに館の考えが出る。


104席の学習室と、Wi-Fi

今回の改修で新しく整備されたものに、図書館独自のWi-Fiがある。

そして、それが引かれた場所が興味深い。報道によれば、子ども読書室と学習室である。

これまで回ってきた館では、Wi-Fiは調べものをする大人のために館内へ広く引かれるのが普通だった。愛媛が優先したのは、子どもと、学習する人のいる部屋だった。

その学習室が、かなり本格的だ。

3階に、持ち込み資料での自習ができる専用の学習室が104席。1階と2階の一般開架・閲覧席は館の資料を使う人のための席なので、教材だけで勉強したいなら3階へ、という切り分けになっている。利用にはカウンターか専用端末で利用カードを提示して座席の指定を受ける(先着順)。

この連載で自習をめぐる答えを追いかけてきたが、104席という規模は突出している。島根の学習室は40席で、開館前に40人以上並ぶと整理券が出ていた。和歌山は2階に自習スペース、鳥取は2階小研修室、岡山は3階自習スペース。愛媛はそこに三桁の席を用意した。

ただし制約もある。3階の学習室ではノートパソコンの持ち込み作業が禁止されている。打鍵音への配慮だ。パソコンでリサーチやレポート作成をしたいなら、2階の「ビジネス・ITコーナー」の席を申請する。こちらには電源がある(スマートフォンだけの充電には使えない)。

静かに勉強する場所と、打鍵する場所を、階で分けている。 岡山が3階の自習スペースと1・2階のサイレント席で分けていたのと、発想は同じで方向が逆になっている。

3階には休憩室もあり、持参した弁当や水筒を広げて食事ができる。外に出ずに一日こもれる。

課題解決支援サービス(ビジネス、医療・健康、子育て)にも取り組んでいる。子育てが柱に入っているあたり、子ども読書室への注力と一本の線でつながっている。


明教館から、米軍接収を経て

沿革をたどると、この図書館も長い道のりを歩いている。

1900年(明治33年)4月28日、愛媛教育協会が皇太子御成婚記念事業として図書館の創立を議決する。1902年、旧松山藩の藩校明教館で仮開館。翌1903年10月4日、松山高等小学校(現在の松山市立番町小学校)の講堂で開館式が挙行された。藩校から始まった図書館である。

1935年(昭和10年)4月1日、愛媛教育協会の図書館が愛媛県に移管され、愛媛県立図書館として設立認可を受けた。このとき新館の建設費を寄贈したのが、伊予鉄道電気社長の井上要。同年5月22日に開館している。

そして戦後。1945年(昭和20年)10月19日、建物がアメリカ軍に接収された。 図書館は愛媛県立錬成道場(1946年)、愛媛教育会館(1947年)と場所を移して開館を続ける。接収が解除されたのは1952年7月3日。同年8月に仮開館し、1953年1月10日にようやく全面開館した。建物を取り上げられてから、戻るまで7年。

前々々回に書いた和歌山県立図書館も、1945年に日本軍と米駐留軍から立て続けに接収されていた。戦後の県立図書館には、こういう時間がある。

1962年には移動図書館「いよじ号」が走り出し、1975年(昭和50年)10月1日、愛媛県政100年を記念して建てられた愛媛県教育文化会館へ移転して正式開館した。これが現在の堀之内の館である。

藩校で仮開館し、米軍に取り上げられ、県政100年の記念館へ移り、そして2026年に耐震改修から帰ってきた。 一つの図書館が抱えるには、なかなかの分量だ。


伊予俳諧文庫と、真鍋博

郷土資料も松山らしい。

伊予俳諧文庫がある。正岡子規と高浜虚子を生んだ土地だけあって、俳諧関係の資料が厚い。ほかに「伊予八藩土地関係資料」、愛媛県の行政資料、そして愛媛県出身のイラストレーター真鍋博に関する資料。

真鍋博は星新一の本の挿絵で知られる人だ。こういう固有名詞が郷土資料のリストに並ぶのが、県立図書館の面白いところだと思う。これらは「えひめ資料室」で扱われている。


設備とアクセス

開館時間が9時40分からという、珍しい刻み方をしている。火曜から金曜が9:40〜19:00、土日祝が9:40〜18:00。子ども読書室は通年9:40〜17:00まで。複写は閉館30分前で締め切られる。

地下1階・地上5階。蔵書は約107万冊(令和6年度)。貸出は1人5冊まで21日間(大型絵本などは3冊14日間)。借出券を作れるのは愛媛県内に在住または通勤・通学している人で、身分証があればその場で無料で作れる。

一般来館者用の専用駐車場がない。 城山公園のなかという立地なので、車なら県庁駐車場など近隣の駐車場を使うことになる。一方で図書館のすぐ横に無料の駐輪場があるので、自転車やバイクなら困らない。

公共交通のアクセスは良い。伊予鉄の市内電車「南堀端」から徒歩2分、「県庁前」「市役所前」からも徒歩5分ほど。伊予鉄松山市駅から徒歩10分、JR松山駅から徒歩15分。路面電車で行くのがいちばん素直だ。


基本情報

項目内容
住所愛媛県松山市堀之内(城山公園内)
アクセス伊予鉄市内電車「南堀端」から徒歩2分/伊予鉄松山市駅から徒歩10分/JR松山駅から徒歩15分
開館時間火〜金 9:40〜19:00 / 土日祝 9:40〜18:00(子ども読書室は9:40〜17:00)
再開館2026年8月22日(2024年11月から耐震・機能向上改修のため閉館、2025年2月からアイテムえひめ3階に仮設図書館)
改修総事業費 約6億8千万円。耐震壁の増設・斜めの補強材で震度7に対応、窓の拡大・LED化・トイレ洋式化・床張り替え・書架と机の更新、子ども読書室の全面改装(県産材・木のブックツリー)
開館1975年10月1日(愛媛県教育文化会館へ移転)/1902年に藩校・明教館で仮開館、1935年に県へ移管
蔵書数約107万冊(令和6年度)
特色伊予俳諧文庫/「伊予八藩土地関係資料」/真鍋博に関する資料/えひめ資料室/課題解決支援(ビジネス・医療健康・子育て)
自習3階に学習室104席(持ち込み資料での自習専用・利用カード提示で当日先着順)。1・2階の一般閲覧席は館の資料を使う人向け。学習室内はノートPCの使用不可
PC作業2階「ビジネス・ITコーナー」の指定席で可(電源あり/スマホのみの充電は不可)
Wi-Fiあり(えひめFreeWi-Fi。改修で子ども読書室・学習室にも整備)
飲食3階に休憩室あり(弁当・水筒の持ち込み可)
駐車場一般用の専用駐車場なし(県庁駐車場など近隣を利用)。図書館横に無料駐輪場あり
貸出5冊21日間(大型絵本等は3冊14日間/県内在住・在勤・在学者)
公式サイト愛媛県立図書館

こんな人におすすめ

  • リニューアル直後の県立図書館を、早いうちに見ておきたい人
  • 持ち込みの参考書で一日こもりたい人(3階学習室104席・休憩室で弁当も可)
  • PCでレポートをまとめたい人(2階ビジネス・ITコーナーへ。学習室ではPC不可)
  • 小さな子ども連れで、木のぬくもりのある読書室を使いたい人
  • 正岡子規や伊予の俳諧に関する資料を調べたい人
  • 松山城や坂の上の雲ミュージアムとあわせて、堀之内を歩きたい人

周辺スポット

歴史・文化

松山城

図書館が建つ城山公園の、その山の上にある城。現存12天守のひとつで、天守をはじめ21棟が重要文化財に指定されている。ロープウェイとリフトで登れて、天守からは松山平野と瀬戸内海が見渡せる。図書館のある堀之内は、この城の三之丸にあたる場所。お堀に囲まれた立地は、そういう理由でできている。

Google Mapsで見る ›
徒歩圏(同じ城山公園内)
文化施設

坂の上の雲ミュージアム

司馬遼太郎の『坂の上の雲』をテーマにした松山市立のミュージアムで、設計は安藤忠雄。三角形の平面に空中を渡るスロープという構成が、建築としても見どころになっている。秋山好古・真之兄弟と正岡子規という松山の3人を軸に、明治という時代を展示する。県立図書館の伊予俳諧文庫とあわせて回ると、子規の街の厚みが分かる。

Google Mapsで見る ›
約500m(松山市一番町)

🏨 図書館巡りの宿を探す

松山・道後温泉の宿を探す

図書館は伊予鉄市内電車「南堀端」から徒歩2分、松山市駅から徒歩10分。道後温泉までは市内電車で20分ほどです。松山城や坂の上の雲ミュージアムも徒歩圏なので、市内中心部か道後に宿を取ると動きやすいエリアです。

楽天トラベルで宿を探す