コミケの父と、貸本屋の主人——米沢嘉博記念図書館・現代マンガ図書館
コミックマーケットを育てたマンガ評論家・米沢嘉博の蔵書14万冊と、日本初のマンガ専門図書館を開いた貸本屋の主人・内記稔夫のコレクション27万点。二人の「マンガを捨てなかった人」の本棚が、明治大学の駿河台キャンパスで一つになった。同人誌から貸本漫画まで、日本最大級のマンガの書庫。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 5 #8は東京・御茶ノ水の米沢嘉博記念図書館と現代マンガ図書館。
前回の大宅壮一文庫は、雑誌だけにこだわった図書館だった。今回はマンガである。それも、二人の人物が一生かけて集めたマンガが、一つの建物に収まっている。
一人目:コミケを育てた評論家
一人目は、米沢嘉博(よねざわ・よしひろ)。1953年生まれのマンガ評論家だ。
米沢の名前は、ある巨大なイベントとともに語られる。年に2回、東京ビッグサイトに数十万人が集まる同人誌即売会、コミックマーケットだ。米沢はその準備会の代表を長く務め、コミケを日本最大の同人誌イベントに育てた。
評論家としての米沢は、マンガを読み、集め、記録し続けた。少女マンガ、ギャグマンガ、成人向けマンガ、同人誌。当時は「研究対象」とはみなされなかったジャンルまで、分け隔てなく。
2006年、米沢は53歳で亡くなる。残された蔵書は、段ボール箱でおよそ5,000箱、約14万冊にのぼった。
二人目:貸本屋の主人
もう一人は、内記稔夫(ないき・としお)。
内記は1955年、東京の新宿区山吹町で貸本屋「山吹文庫」を開いた。まだマンガが「買うもの」ではなく、貸本屋で「借りて読むもの」だった時代だ。のちに豊島区南長崎に移り、貸本と新刊販売の「ナイキ書房」を営む。
貸本屋の主人として、内記は商売のためだけでなく、マンガを残すためにも集め続けた。そして1978年、自らのコレクションをもとに「現代マンガ図書館」を開く。これが日本で初めてのマンガ専門図書館とされている。
半世紀以上かけて集めた資料は、未整理分も含めて約27万点。手塚治虫や水木しげるが貸本マンガを描いていた時代の単行本も、ここに残っている。
明治大学で、一つになる
二人のコレクションをつないだのは、明治大学だった。
米沢は生前、マンガ・アニメ・ゲームの一大アーカイブ施設「東京国際マンガ図書館(仮称)」の構想に協力していた。米沢の死後、この構想の中心になった明治大学が遺族から蔵書の寄贈を受け、2009年10月31日、駿河台キャンパスに「米沢嘉博記念図書館」を開館する。
同じ2009年、内記稔夫も現代マンガ図書館のコレクションを明治大学に寄贈した。翌2010年に「明治大学現代マンガ図書館」となり、2021年からは米沢嘉博記念図書館と窓口を一つにした複合運用が始まっている。2022年には蔵書検索も統合された。
コミケを育てた評論家と、貸本屋の主人。マンガのまったく違う側面を愛した二人の本棚が、いまは同じ建物で並んでいる。合わせると、日本最大級のマンガの書庫だ。
同人誌から貸本まで
二つのコレクションは、性格がはっきり違う。
| 米沢嘉博記念図書館 | 現代マンガ図書館 | |
|---|---|---|
| 集めた人 | マンガ評論家・米沢嘉博 | 貸本屋・内記稔夫 |
| 規模 | 約14万冊 | 約27万点 |
| 得意分野 | 同人誌、マンガ関連の雑誌・評論 | 貸本時代を含む単行本・雑誌 |
| 開館 | 2009年 | 1978年(明治大学移管は2009〜2010年) |
米沢のコレクションは、同人誌やマンガ関連の雑誌が厚い。コミケの歴史そのものが詰まっていると言っていい。一方、内記のコレクションは、戦後のマンガ史の土台になった貸本マンガや単行本が強い。
1階の展示室では、こうした資料を使った企画展が開かれる。2026年は「コミケ50周年展」や「楽しい!歴史マンガ展」が開催された。展示室は無料で入れる。
利用のしかた
マンガ喫茶のように気軽に読める場所、と思っていると少し違う。
- 1階展示室:誰でも無料で見られる
- 2階閲覧室:約4,500冊のマンガと参考図書が開架で、自由に手に取って読める。明治大学の学生・教職員以外は会員登録が必要
- 3〜5階の閉架書庫:蔵書の大半はここ。蔵書検索で探して、スタッフに出してもらう(1冊110円)
- 貸出はしない:館内で読むか、複写を頼む(白黒1枚55円、カラー1枚110円)
会員の種類と料金はこうなっている。入会には住所のわかる身分証明書がいる。
| 会員種別 | 料金 | 読めるもの |
|---|---|---|
| 1日会員(18歳未満) | 110円(未就学児は無料) | 2階の開架資料のみ |
| 1日会員(18歳以上) | 330円 | 開架資料と書庫資料(1979年以前の資料など一部を除く) |
| 1か月会員 | 2,200円 | 全資料 |
| 1年会員 | 6,600円 | 全資料 |
古い雑誌や貸本時代の資料をじっくり調べたいなら、1日会員ではなく1か月会員を選んだほうがいい。
「漫画を読みに行く」というより「漫画を調べに行く」図書館だ。とはいえ、懐かしい少年誌や有名マンガ家の初期作品をめくっていると、調べものを忘れて読みふけってしまう。
なお2026年2月からは、資料移転に伴って一部の資料が一時的に利用できなくなっている。読みたい資料がある場合は、事前に電話(03-3296-4554)で確認しておきたい。
設備とアクセス
JRの御茶ノ水駅から徒歩約7分、JR水道橋駅や地下鉄の神保町駅から徒歩約8分。明治大学駿河台キャンパスの一角にある、7階建てのビルだ。
開館時間は、月曜・金曜が14:00〜20:00、土日祝が12:00〜18:00。火・水・木曜は休館なので、週の真ん中には開いていない。年末年始や特別整理期間も休みになる。
駐車場はないので、周辺の有料駐車場か電車で。利用者向けのWi-Fiやコンセントはなく、自習のための席もない。閲覧室の席は、館内の資料を読むためのものだ。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 東京都千代田区神田猿楽町1-7-1(明治大学駿河台キャンパス) |
| アクセス | JR「御茶ノ水駅」徒歩約7分/JR「水道橋駅」・地下鉄「神保町駅」徒歩約8分 |
| 開館時間 | 月・金 14:00〜20:00/土日祝 12:00〜18:00 |
| 休館日 | 火・水・木曜日・年末年始・特別整理期間 |
| 料金 | 1階展示室は無料。2階閲覧室は会員制(1日会員330円、18歳未満110円、1か月2,200円、1年6,600円) |
| 閉架資料・複写 | 閉架資料の閲覧1冊110円、複写は白黒55円・カラー110円 |
| Wi-Fi・電源 | なし |
| 学習室 | なし |
| 所蔵 | 米沢嘉博コレクション約14万冊+現代マンガ図書館約27万点 |
| 開館 | 米沢嘉博記念図書館 2009年10月31日/現代マンガ図書館 1978年 |
| 方式 | 2階は一部開架、3〜5階は閉架書庫・貸出なし |
| 駐車場 | なし(周辺の有料駐車場を利用) |
| 公式サイト | 米沢嘉博記念図書館 |
こんな人におすすめ
- コミックマーケットの歴史を、実際の同人誌や資料でたどりたい人
- 手塚治虫や水木しげるの貸本時代のマンガを、実物で読んでみたい人
- マンガ史やサブカルチャーを、卒論や研究のテーマにしている人
- 懐かしい少年誌や少女マンガ誌を、もう一度めくってみたい人
- 神保町の古書店街とあわせて、本とマンガの街を一日歩きたい人
周辺スポット
神保町古書店街
靖国通り沿いを中心に、100軒を超える古書店が集まる世界有数の本の街。文学、美術、映画、そしてマンガの専門店もある。図書館で読んだ古いマンガの単行本を、店先で探してみるのも楽しい。カレーや喫茶店の名店も多く、本の街の一日を締めくくるのにちょうどいい。
Google Mapsで見る ›明治大学博物館
明治大学の駿河台キャンパスにある大学博物館で、入館は無料。考古、商品、刑事の三部門があり、刑事部門では江戸時代の捕物道具や、ギロチン、拷問具といった世界の刑罰の資料まで展示している。マンガ図書館とはまったく違う方向に「こだわった」展示が見られる。
Google Mapsで見る ›