国宝6点の図書館に、15歳から誰でも入れる——天理大学附属天理図書館
蔵書約150万冊、国宝6点、重要文化財88点。日本書紀の神代巻からキリシタン版、漱石の自筆原稿まで。奈良県天理市の天理大学附属天理図書館は、日本有数の貴重書を持つ大学図書館でありながら、1930年の開館以来、15歳以上なら誰でも無料で入れる。昭和初期の建物は国の登録有形文化財。集めることと開くことの両方にこだわった図書館。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 5 #17は奈良県天理市の天理大学附属天理図書館。天理市には市立図書館も別にあるが、今回訪ねるのは天理大学の図書館のほうだ。以下、「天理図書館」と呼ぶ。
前回の京都国際マンガミュージアムは、マンガを文化として残す場所だった。今回はさらに時代をさかのぼる。日本書紀の古い写本、宣教師が日本で刷った本、漱石の自筆原稿。こだわっているのは、日本と世界の貴重な本を集めること、そしてそれを誰にでも開くことだ。
国宝が6点ある大学図書館
天理図書館の蔵書は約150万冊。和漢書と洋書がおよそ3対1の割合で、宗教学、東洋学、日本文学、歴史学、言語学など、文系の分野に厚い。
そして何より、貴重書の質がとんでもない。
- 国宝6点:『日本書紀』神代巻、『類聚名義抄』など
- 重要文化財88点(2026年2月時点)
- 重要美術品も多数
国宝の中には、中国で書かれたのに中国には残っておらず、日本にしか現存しない漢籍もある。
ほかにも、名前を聞いただけで驚く資料が並ぶ。
- 『播磨国風土記』:奈良時代に、播磨(いまの兵庫県南西部)の地名の由来や伝承をまとめた書物
- 『源氏物語』の池田本、国冬本(どちらも重要文化財)
- 松尾芭蕉の生前に描かれたとされる肖像画「奥の細道行脚之図」
- 夏目漱石『三四郎』の自筆原稿など、文豪たちの原稿
一つの図書館が持っているとは思えない並びだ。
キリシタン版
なかでも世界的に知られているのが、「きりしたん版」のコレクションだ。
16世紀の終わり、イエズス会の宣教師たちはヨーロッパから活版印刷機を日本に持ち込み、キリスト教の教えの本や辞書、日本語の文学を印刷した。それがキリシタン版である。日本で初めての金属活字による印刷だったが、やがてキリスト教の禁止とともに、日本からほとんど姿を消してしまった。
いま世界に残っているキリシタン版は、ごくわずか。天理図書館はそのうち8種10点を持っていて、重要文化財の『ぎやどぺかどる』も含まれている。日本の印刷の歴史としても、世界の文化史としても、貴重なコレクションだ。
一人の構想から
天理図書館の始まりは1926年。天理教の二代真柱(教団の代表者)だった中山正善の構想で、天理外国語学校(いまの天理大学)の附属図書館として生まれた。最初の蔵書は約2万6,000冊だった。
中山正善は、東京の古書店街に通って熱心に本を集めた人だった。大きく蔵書が増えたのは戦後のこと。戦争のあと、多くの旧家や名家が持っていた古い本や記録を手放し、古書店から天理図書館に買い取りの相談が次々に来たという。散らばってしまうかもしれなかった資料が、ここに集まった。
はじめは天理教の布教にかかわる資料が中心だったが、戦後はあらゆる分野の本を集めるようになる。そうして、いまの150万冊の図書館ができあがった。
昭和5年の建物
いまの建物ができたのは1930年(昭和5年)。重厚な洋風の外観で、中世ヨーロッパの建物を思わせる。本を収める書庫を中心に設計された、日本の近代図書館建築の早い例とされる。2023年には、西館と東館が国の登録有形文化財になった。
中に入って最初に目に入るのは、書棚ではなく大理石のカウンターだ。天理図書館は基本的に閉架式で、蔵書検索や昔ながらのカード目録で本を探し、カウンターで出してもらう。閲覧室には開館当時からの机が並び、窓には大正時代の、少しゆがんだ「揺れガラス」が残っているという。
#15の伊賀市中央図書館は、60年前の庁舎を図書館として生き返らせた。天理図書館は、およそ100年前に図書館として建てられた建物を、いまも図書館として使い続けている。
秋になると、建物のまわりのイチョウが黄色く色づく。訪ねるなら晩秋がいちばんきれいだ。
開館当時から、誰でも無料
天理図書館がPhase 5に入る理由は、貴重書の多さだけではない。
これだけの資料を持つ大学図書館なのに、15歳以上なら誰でも、無料で、予約なしに入れる(中学生は除く)。しかも開館した当初から、一般の人に無料で公開してきた。地域のための図書館であろうとする考え方が、昭和のはじめからずっと続いている。
- 新刊図書、雑誌、江戸時代以降の和古書、清代以降の漢籍の大半は、事前の申請なしで閲覧できる
- 文庫・新書、辞書・事典、新刊和書、当日の新聞、新刊雑誌は、開架にあって自由に読める
- 江戸時代より前の資料など、特別本(貴重書)を見るには事前の申請が必要
- 館外に借りるには所定の保証書などが必要で、学外の人には制限がある
特別本を閲覧するときのルールは厳しい。書き写すときは鉛筆だけで、消しゴムも使えない。資料の撮影や透写は禁止で、ページをめくるときに指をぬらすのもいけない。1日に見られるのは5点までだ。
国宝そのものを気軽に手に取ることはもちろんできない。でも、江戸時代の和本なら申請なしで出してもらえることが多い。それだけでも、ふつうの図書館ではまずできない体験だ。
年に一度の記念展
天理図書館では、毎年秋に開館記念の展覧会を開いている。ふだんは見られない貴重書が並ぶ、年に一度の機会だ。
2026年は「天理図書館開館96周年記念展 古今和歌集と伊勢物語」。会期は10月19日から11月8日まで。所蔵する『古今和歌集』『伊勢物語』の写本や自筆の注釈書を中心に、重要文化財4点、重要美術品8点を含む41点を公開している。藤原俊成が書いた『古今和歌集両序』なども並ぶ。
- 開場時間:9:30〜15:30(入場は15:00まで)、会期中は無休
- 観覧料:大人1,000円、中学生以下は無料
図書館そのものは中学生以下は使えないが、記念展は中学生以下が無料になっている。親子で行くならこの時期だ。この記事が公開される11月2日の時点で、会期は残り1週間ほど。気になる人は急ぎたい。
設備とアクセス
JR万葉まほろば線・近鉄天理線の天理駅から約2km。バスで約8分、歩くと30分ほどかかる。天理教の本部の前を抜けて、天理大学のキャンパスの方へ向かう。
開館時間は、平日が9:00〜17:30、土曜・祝日などの開館日が9:00〜16:30。日曜日は休館だ(10月と1月以外で、26日が日曜にあたる月は開館)。ほかにも4月18日、8月11〜17日、10月18日・26日、年末年始(12月27日〜1月6日)、1月26日、3月27〜31日が休館で、毎月末は閲覧が休みになる。ほかの図書館にはない独特の休館日なので、行く前に必ず公式サイトのカレンダーを確認したい。
館内のルールも、一般の図書館より少し厳しい。閲覧室にはカバン類や飲食物を持ち込めないので、荷物は休憩室のロッカーに預ける。ロッカーは100円硬貨を入れて鍵をかけ、開けると100円が戻ってくるタイプだ。休憩室では飲食ができ、自動販売機もあるという。
利用者向けのWi-Fiやコンセントはない、と実際に通っている人が書いている(公式の案内には記載がない)。閲覧室の机の一部が電子機器を使えるエリアになっているそうなので、ノートPCを使うならバッテリーを満タンにしていきたい。学習室もなく、貴重な資料を読むための静かな閲覧室だと思って訪ねたい。
駐車場は、天理市観光協会の案内では「あり」、旅行サイトでは「なし」と情報が分かれていて、公式の案内でも確認できなかった。車で行く場合は事前に問い合わせたほうがいい。天理教の月次祭などの行事がある日は、周辺がかなり混み合うので注意したい。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 奈良県天理市杣之内町1050 |
| アクセス | JR・近鉄「天理駅」から約2km(バス約8分、徒歩約30分) |
| 開館時間 | 月〜金 9:00〜17:30/土・祝の開館日 9:00〜16:30 |
| 休館日 | 日曜日、4/18、8/11〜17、10/18・26、12/27〜1/6、1/26、3/27〜31、曝書期間(毎月末は閲覧休) |
| 利用対象 | 15歳以上(中学生を除く)なら誰でも。入館無料・予約不要 |
| 蔵書 | 約150万冊(国宝6点、重要文化財88点) |
| 閲覧 | 閉架式。特別本(貴重書)は事前申請が必要(筆写は鉛筆のみ、撮影不可、1日5点まで) |
| 持ち込み | 閲覧室へのカバン類・飲食物は不可(100円返却式ロッカーあり、休憩室で飲食可) |
| 貸出 | 学外者は制限あり(所定の保証書などが必要) |
| 開館 | 1926年(現在の建物は1930年、国の登録有形文化財) |
| 運営 | 天理大学 |
| 記念展 | 2026年は「古今和歌集と伊勢物語」10/19〜11/8(大人1,000円、中学生以下無料) |
| Wi-Fi・電源 | なし(公式の記載はなく、利用者の情報による) |
| 学習室 | なし |
| 駐車場 | 情報が分かれているため要問い合わせ |
| 公式サイト | 天理図書館 |
こんな人におすすめ
- 国宝や重要文化財の古典籍を持つ図書館を、自分の目で見てみたい人
- キリシタン版や、日本の印刷の歴史に興味がある人
- 江戸時代の和本を、実際に出してもらって読んでみたい人
- 昭和初期の図書館建築が好きな人
- 古今和歌集や伊勢物語の古い写本を、記念展で見たい人
- 石上神宮や山の辺の道とあわせて、奈良の古い道を歩きたい人
周辺スポット
石上神宮
日本書紀にも名前が出てくる、日本でも最も古い神社のひとつ。国宝の七支刀を伝え、境内には神の使いとされる鶏が放し飼いにされている。拝殿は鎌倉時代の建物で国宝。天理図書館で日本書紀の神代巻を見たあとに、その日本書紀に書かれた神社へ歩いて行ける。
Google Mapsで見る ›天理参考館
天理図書館と同じ天理大学の附属施設で、世界各地の生活用具や考古資料を集めた博物館。朝鮮半島や中国、台湾、東南アジア、アメリカ大陸まで、民俗資料の幅の広さに驚く。2025年には、天理図書館が持つ漱石・子規・鷗外の自筆原稿の展覧会もここで開かれた。図書館とセットで回りたい。
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