市民が、6年かけてつくった図書館——瀬戸内市民図書館 もみわ広場
かつて岡山県内で住民一人あたりの蔵書冊数も貸出冊数も最下位だった瀬戸内市。市民が声を上げ、ワークショップを重ね、館長を公募し、2016年に新しい図書館が生まれた。愛称は「もちより・みつけ・わけあう広場」を縮めた「もみわ広場」。翌年にはLibrary of the Year大賞を受けた。市民参加にこだわってつくられた図書館。

※画像はAIによるイメージです。実際とは異なります。
Phase 5 #20は岡山県瀬戸内市の、瀬戸内市民図書館 もみわ広場。
前回のこども本の森 中之島は、一人の建築家が街に贈った図書館だった。今回は反対に、市民が何年もかけて、自分たちでつくった図書館だ。こだわっているのは、図書館づくりに市民が参加することである。
岡山県で最下位だった町
瀬戸内市は、岡山市の東隣にある人口3万人台の市だ。2004年に邑久町、牛窓町、長船町の3町が合併して生まれた。
合併したとき、市には図書館と呼べる施設がなかった。旧3町の公民館にそれぞれ図書室があるだけで、人口約4万人の市に見合う図書館はなかったのだ。合併後の計画には図書館の整備が書かれていたが、なかなか進まない。2010年には地元の新聞が、瀬戸内市は岡山県内の市町村立図書館の中で、住民一人あたりの蔵書冊数も貸出冊数も最下位だと報じた。
市民が、声を上げた
動き出したのは市民だった。
はじめは「瀬戸内市の子どもたちに本のある広場を」という願いから、学校図書館に司書を置いてほしいという声が上がった。それがやがて、市民みんなが使える公共図書館を求める動きに広がっていく。
2009年の市長選挙で、図書館の整備が公約に掲げられた。そして2010年、市民は市長と市議会に要望書を出した。中身は、
- 図書館の整備計画をつくる過程を、市民に公開すること
- 図書館づくりに、市民が参加できるようにすること
- 館長の候補者を、全国から公募すること
という3つ。議会はこれを採択した。
館長を公募し、市民と話し合う
館長候補には、公募で選ばれた嶋田学さんが、2011年に滋賀県の東近江市立図書館から着任した。図書館ができる5年も前のことだ。
そこから、市民との話し合いが続いた。2011年に基本構想、2012年に基本計画。その間に「としょかん未来ミーティング」というワークショップを開いて、市民の声を聞いた。
出てきた要望は、ときにぶつかり合う。静かに本を読みたい人がいれば、カフェのようににぎやかに過ごしたい人もいる。グループで勉強できる部屋がほしい、Wi-Fiを使いたい、親子連れが気兼ねなく使える場所がほしい。そうした声を一つずつ計画に書き込んでいった。
2013年には、この計画をもとに設計者を選び、建築家の香山壽夫さんが設計を担当した。設計の図面ができると、それをまたワークショップで市民と検討して、2014年に実施設計を仕上げた。市民の声を聞くのは計画のときだけではなく、設計の段階まで続いたのだ。
そして2016年6月、新しい図書館が開館した。市民が要望書を出してから、6年がたっていた。
もちより・みつけ・わけあう
愛称の「もみわ広場」は、全国から公募して決まった。図書館の基本理念「もちより・みつけ・わけあう広場」の頭文字をとったものだ。
- もちより:市民が知りたいことや困っていることを、図書館に持ち寄る
- みつけ:図書館で、そのヒントや答えを見つける
- わけあう:見つけたことを、ほかの人と分かち合う
この理念は、図書館のいろいろなところに形になっている。
たとえば、図書館の壁を飾る3,200枚以上のタイル。地元の寒風陶芸会館と組んだ「寒風としょかんタイルプロジェクト」で、市民が一枚ずつつくったものだ。図書館の建物そのものに、市民の手が入っている。
図書館の友の会「もみわフレンズ」の提案で、気になった新聞記事を持ち寄って紹介し合う「新聞版ビブリオバトル」も開かれている。カフェコーナーでは月に1回、障がいのある人たちがつくったパンやお菓子が売られる。
分類にとらわれない棚
蔵書は約20万冊。棚の並べ方にも工夫がある。
日本十進分類法(NDC)の番号どおりに並べるのではなく、利用する人の目線で、関係のある本を近くに集めている。書架の見出しも、分類の専門用語ではなく、ふだん使う言葉で書かれている。認知症についての本を集めた棚、健康・医療情報のコーナー、放送大学のテキストを並べた棚など、市民の暮らしの困りごとに合わせた棚もある。
#19のこども本の森 中之島も、分類ではなく12のテーマで本を並べていた。図書館の棚を、使う人の側から組み立て直す。そこに二つの館の共通点がある。
遺跡の上の図書館
図書館の建物は2階建てで、隣の中央公民館と同じ敷地に建っている。
この敷地は、弥生時代の「助三畑遺跡」の上にある。図書館の床下には、遺跡から土器などが出てきたときの様子を再現した展示がある。本を探しに来て、足元に2000年前の暮らしの跡を見つけることができる。
館内には、瀬戸内市出身で、世界的に知られた糸あやつり人形師・竹田喜之助を紹介する「喜之助ギャラリー」と、郷土の資料を展示する「せとうち発見の道」もある。専属の学芸員がいて、年に4回ほど企画展を開いている。毎月第2日曜日(8月を除く)には、多目的ホールで人形劇の定期公演もある。
Phase 5のなかで
Phase 5では、#2の紫波町図書館、#14の塩尻市立図書館えんぱーくと、まちづくりの中心になった図書館を訪ねてきた。どちらも、市や町が描いた計画のなかで図書館が大きな役割を担っていた。
もみわ広場は、そこからさらに一歩進んでいる。図書館をつくろうと最初に動いたのは市民で、計画も設計も、市民と話し合いながら進められた。市民が図書館をつくり、その図書館が市民の困りごとを受け止める。2017年、もみわ広場は「Library of the Year」の大賞とオーディエンス賞を同時に受けた。
設備とアクセス
JR赤穂線の邑久駅から徒歩約10分。車なら、岡山ブルーラインの瀬戸内ICから約5分だ。駐車場もあり、無料で使えるという(台数は未確認)。市役所の駐車場でマルシェなどのイベントがある日は混み合うことがあるようだ。
開館時間は、火・水・土・日・祝日が10:00〜18:00、木・金曜日が10:00〜19:00。休館日は月曜日、祝日の翌平日、毎月最終水曜日、年末年始、特別整理期間。閉館中は、1階の外にあるブックポストで本を返せる。
瀬戸内市の無料Wi-Fi「SETOUCHI Free Wi-Fi」が、1階のもみわカフェと2階のスタディルームで使える。館内のどこでもつながるわけではないので、ネットを使う作業はこの2か所でしたい。
2階には、学生や社会人が自習に使える「スタディルーム」がある。吹き抜けに面したカウンター席も自習に使えて、各席に手元を照らすライトが付いている。グループで話し合いながら勉強できる「チャットルーム」もあり、ふだんは閲覧・学習スペースとして開放されている(グループで使うときは職員に相談する)。2階の閲覧席は全部で200席。インターネットが使えるパソコンも8台ある。
なお、自習する人が増えたためにスタディルームの利用が当日受付制になった、市内に住む人や通勤・通学する人を優先している、という情報もある(公式の案内では確認できなかった)。市外から勉強しに行く場合は、事前に問い合わせておくと安心だ。カウンター席にはコンセントがあるという情報もあるが、こちらも公式では確認できていない。
玄関を入ってすぐの「もみわカフェ」(テーブル席とカウンター席で24席)では、持ち込んだ飲み物や食べ物を、話しながら楽しめる。庭に面した読書テラスもある。子ども向けには「こどものほん」のエリア、えほんコーナー、親子で遊べる「おはなしのへや」がある。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 岡山県瀬戸内市邑久町尾張465-1 |
| アクセス | JR赤穂線「邑久駅」徒歩約10分/岡山ブルーライン「瀬戸内IC」から車で約5分 |
| 開館時間 | 火・水・土・日・祝 10:00〜18:00/木・金 10:00〜19:00 |
| 休館日 | 月曜日・祝日の翌平日・毎月最終水曜日・年末年始・特別整理期間 |
| 蔵書 | 約20万冊 |
| 開館 | 2016年6月 |
| 建物 | 2階建て、延べ約2,384㎡、設計:香山壽夫(助三畑遺跡の上) |
| 席数 | 閲覧席200席(2階)、スタディルーム、チャットルーム、カウンター席、もみわカフェ24席 |
| 受賞 | Library of the Year 2017 大賞・オーディエンス賞 |
| 併設 | もみわカフェ(持ち込み飲食可)、喜之助ギャラリー、せとうち発見の道、読書テラス |
| Wi-Fi | あり(SETOUCHI Free Wi-Fi、もみわカフェとスタディルームで利用可) |
| 電源 | 公式では確認できず(カウンター席にあるとの情報あり) |
| 学習室 | あり(スタディルーム。受付制・市民優先との情報あり、要確認) |
| 駐車場 | あり(無料とされる) |
| 公式サイト | 瀬戸内市民図書館 |
こんな人におすすめ
- 市民参加でつくられた図書館が、どんな場所になったのかを見てみたい人
- 図書館づくりやまちづくりに、自分も関わってみたいと思っている人
- 分類番号ではなく、暮らしの言葉で並んだ棚を歩いてみたい人
- 人形劇や竹田喜之助の糸あやつり人形に興味がある人
- 牛窓の海や長船の刀剣とあわせて、瀬戸内市をめぐりたい人
- 紫波町図書館やえんぱーくとあわせて、「まちの図書館」を見比べたい人
周辺スポット
牛窓オリーブ園
「日本のエーゲ海」と呼ばれる牛窓の丘の上に広がるオリーブ園。約2,000本のオリーブの木の間を歩くと、瀬戸内海に浮かぶ島々が見渡せる。もみわ広場の敷地にも「オリーブの庭」があり、オリーブは瀬戸内市を象徴する木だ。図書館のあとに、海辺の町まで足をのばしたい。
Google Mapsで見る ›備前長船刀剣博物館
鎌倉時代から多くの名工を生んだ日本刀の里・長船にある、刀剣専門の博物館。名刀の展示に加えて、刀匠や研師などの職人が実際に仕事をする工房も見学できる。瀬戸内市の長船は、刀剣ファンにとっての聖地のひとつ。もみわ広場の郷土資料コーナーで予習してから訪ねるのもいい。
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瀬戸内市は岡山市の東隣。牛窓の海辺には、瀬戸内海を眺められるホテルやペンションがあります。岡山市内に泊まって、電車でJR邑久駅へ向かうこともできます。
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